本紙が今年5月に催行した「米国・塗料ビジネス視察ツアー」レポートの3回目。現地のペイントショップやゼネコンを訪問したツアー3日目の様子を報告する。

ツアー3日目のこの日は、アメリカを代表する塗料メーカー「ベンジャミンムーア(以下、BM社)」の代理店「Tri-Color Paint」、ホームセンターチェーンの「Ace Hardware」、ペイントショップの「Vista paint」、そしてラスベガスのゼネコン「Martin-Harris Constructor」の順で訪問。朝9時から夕方5時までビッシリと視察が詰まったスケジュール。

自由視察の「Ace Hardware」以外はいずれも経営者や店長へのインタビューつきで、とても詳しい説明を受け、多くの質問にも丁寧に答えてくれた。

Tri-Color Paint

アメリカの塗料販売の形態は、塗料メーカー直営のペイントショップと独立系(個人オーナー)のペイントショップ、そしてホームセンターの3つに大きく分かれる。

この日最初に訪問したのは「Tri-Color Paint」という独立系のペイントショップ。ここはラスベガスにおけるBM社の有力代理店で、取り扱いはほぼ100%ベンジャミンムーアペイント(以下、BMペイント)。

同店へのアポイントに際してBM社の日本の代理店・B.M.ジャパンを介してアレンジしてもらい訪問が実現。当日はTri-Color Paintの経営者Erickさん、BM社の海外担当Brentさん、同広報のTimさんが我々を迎えてくれた。

「Tri-Color Paint」はErickさんともう1人の共同経営者と従業員3人の計5人で運営。客層はプロのペインターと一般客とが6対4の割合。BMペイントが主力だけあって、販売構成は内装塗料が8割、外装用が2割といった内容だ。

店の設備はコンピュータ制御の自動計量調色機2台と手動調色機1台、撹拌機4台を備え、1日に120ガロンを調色販売しているという。売上については明言を避けたが、ベンジャミンムーアの商品単価と販売量から推計すると月間2,000万円の規模感。

BMペイントを主力としている理由について同店経営者のErickさんは「アメリカの各種塗料ブランドの中では最高級に位置している。樹脂と顔料の含有量が最もリッチで隠ぺい性に優れ、色の数と表現力、塗膜の強さ、汚れへの耐性など自信を持ってお客さんに薦められるから」とブランドロイヤルティが非常に高い。

BM社はメーカー直営店で展開しているシャーウィン・ウィリアムズなどとは異なり、こうした個人オーナーのペイントショップを代理店として展開している。カナダを含めた北米で約5000店のネットワークを広げ、各個店のロイヤルティを高めるブランディング戦略を推進しているのが特徴で、米国内の塗料ブランド評価ではトップに位置している(10 Best Companies in USA)。

ラスベガスの塗料市場の傾向についてErickさんに聞いたところ、「ほぼ5年サイクル」というくらい、家の住み替えが頻繁だそうだ。人の出入りの度に外装、内装が塗り替えられるケースも多いが、サイクルが短いため耐久性よりもコスト優先の傾向が強いという。

一方、アメリカ東海岸のニュージャージーに本社を置くBMペイントは、「東海岸の人たちは家を買うと一生住み続ける傾向が強い」ため、その品質を基点にブランドが支持されている背景がある。コスト優先のラスベガス市場ではやや不利な立場にあるが、「最近は東海岸からの人の流入が増えてベンジャミンムーアのファンが広がっており、伸ばせるチャンス」と見て、活動に力を入れているとのことだ。

Vista paint

午後に訪問したペイントショップ「Vista paint」は、カリフォルニア州に本社を置くローカル塗料メーカーの直営ショップ。直営ショップとしてはカリフォルニア州に35店舗、ラスベガスに3店舗を構えており、この店自体はオープンして3年目になるという。Vista paintの社員で同店の店長Michaelさんが対応してくれた。

このショップの客層はプロのペインターが75%、一般のホームオーナーが25%の割合。一般向けの販売の方が利益率が高いので、5対5の割合に持っていくのを課題にしているとのことだ。

ここはVista paintという塗料メーカーの直営店でありながら、BMペイントも扱っているユニークな店舗だ。「外装はVista paint、内装はBMペイントと使い分けている。内装用に関してはやはりBMペイントの品質が優れているから」と品質本位で商品構成を行っている。ブティックや化粧品店、ショッピングモールなど全国チェーン店の内装でBMペイントがスペックされており一定の需要があるという。

一方、Vista paintは「コスト優先の性質が強いラスベガス市場でも十分戦える商品」として需要開拓に力を入れている。そこでの自社の強みは「カラーマッチング力」だと自信を持って答える。

「ホームセンターはもちろん、他の塗料メーカー直営店もすべて機械(自動計量調色機)のみで調色しているが、マシンだけではピタッと色が合わないケースも多い。最後の色の補正はやはり人の手が必要で、ベテランの調色マンを抱えている当社の強みが生きる」と胸を張る。

午前中に訪れたTri-Color PaintもこのVista paintも調色の精度とスピード対応をホームセンターや塗料メーカー直営店との差別化として意識していた。

Martin-Harris Constructor

この日最後に訪れたのは、ラスベガスのゼネコン「Martin-Harris Constructor」。本来は塗料メーカー大手のPPGの直営店にアポイントを取っていたのだがドタキャンになり、急遽アポイントを取り直した会社。建設会社だけに、アメリカ独特の建設工法やラスベガスの建設市場の特色などが聞け、とても有意義な訪問となった。

同社で対応してくれたのは副社長のPaulさんと、日本に留学経験があるというエンジニアのDavidさん。

360人の従業員を抱える同社は、学校やカジノ、ホテル、コンドミニアム、空港施設などを手掛ける創業40年の総合建設会社。

話の中で面白かったのはラスベガス特有の建築物への考え方だ。

ラスベガスでは建物の耐久性に関して「25年もてばいい」という前提で建てることが多いとビックリ発言。

よく知られているようにラスベガスはカジノや観光を中心としたエンターテイメントの街。陳腐化して飽きられないようにスクラップ&ビルドが盛んで、このため長期耐久性の概念が薄いという。「例えばインテリアの仕上げで人の目の届く範囲は本物の木を使いますが、目の届かない高所はフェイクを使ってコストを下げます。精巧にできている日本の壁紙もよく使いますよ」と、合理的というかとてもドライな考えだ。前出のペイントショップの「コスト優先」という話とも符号、ラスベガスならではの市場特性の話を聞いた。

その一方で「安全性のレギュレーションは厳しい」とのこと。特に1981年に起きたMGMホテル火災以降は厳格化しており、「発泡型の耐火塗料が鉄骨に多く使われている」と塗料に関する話にも触れた。

建設工法でユニークだったのはコンクリートの打設に関する話。

ラスベガスは高温かつ乾燥地帯のため夏場のコンクリート打設時の水分調整が独特。必要以上に速い乾燥を防ぐため「混練に際して氷を大量に放りこみ、打設作業も夜間に行う」とその土地ならではの工夫を凝らす。

また、コンクリートの壁の施工では、コンクリートスラブの上の平面で壁を造りクレーンで持ち上げて建てる工法を実際の動画で紹介。初めて見る光景にツアーメンバーも興味深く見入っていた。

次回、最終回はホームセンターの塗料売り場の様子をレポートする。