巨大防潮堤に連なる壁画、描く夢は世界遺産

世界的にも珍しい広大な屋外美術館の「海岸線の美術館」。2022年、宮城県石巻市雄勝(おがつ)町に誕生した美術館だ。震災後にできた長さ3.5kmに及ぶ巨大な防潮堤をキャンパスに壁画を描き続け、「100年後の世界遺産」を夢見る壮大なプロジェクト。壁画制作の塗料を関西ペイントが提供し、刷毛や資材やデリバリーを地元塗料ディーラーの協立塗料が協力、業界企業も惜しみない応援を続けている。


宮城県石巻市雄勝町。三陸のリアス式海岸に囲まれ、かつて「日本一美しい漁村」と呼ばれた町を東日本大震災の大津波が襲った。町の8割が壊滅し、人口も4分の1に激減。そして、震災の復興事業でできた巨大な防潮堤が、町の風景を一変させた。

山と海が近接するリアス式海岸の美しい風景を、高さ10mの防潮堤が分断。日本一美しいと呼ばれた漁村は、海岸線に沿った3.5kmの長さに及ぶコンクリートの壁に囲まれ、無機質なモノトーンの町へと変貌した。

その無彩色の壁に壁画を描き続け、町全体を屋外美術館に仕立てる壮大なプロジェクトが「海岸線の美術館」だ。その発案者で同美術館の館長でもある高橋窓太郎さんが、町の人たちや地元行政、そして壁画を描くアーティストを巻き込んでプロジェクトがスタート。2022年秋に、アーティスト・安井鷹之介さんによる第1作目の壁画「THEORIA|テオリア」(7.5m×54.6m)と2作目の「A Fisherman|漁師」(7.5m×6.6m)が完成、美術館が開館した。

みんなが集まる大きな建築空間に

その雄勝町で10月13日、安井鷹之介さんが描いた同美術館の5作目の作品「岩戸開|The Opening」(7.8m×13.8m)の完成を祝い、「Ogatsu Sea Side Fes」が開催され、地域住民など多くの来場者で賑わった。

5作目の「岩戸開|The Opening」は、雄勝町に伝わる無形文化財・雄勝法印神楽の岩戸開の一幕を描いた作品。

制作に当たった安井さんは、「太陽神アマテラスを岩戸から誘い出し、世界に光を取り戻した神話の一節をモチーフにしました。神々が賑やかな宴を開いてアマテラスを誘い出したように、皆さんが今日集まって賑やかな空間をつくってくれることで、この壁画が完成する思いを込めています」とオープニングセレモニーで語り、集まった多くの来場者に感謝の思いを伝えた。

巨大な防潮堤に壁画を描き続けていく海岸線の美術館には、現在8つの作品が描かれている。1作目の「THEORIA|テオリア」、2作目の「A Fisherman|漁師」に続き、「GOLDEN TWILIGHT|黎明」「BIG CATCH|名振のおめつき」「岩戸開|The Opening」「大首絵|Okubi-e」「人魚を見た|We saw mermaids」など、次々に作品が完成。町の風景に彩が戻ってきている。

高橋窓太郎館長は、「今年から、美術館は次のフェーズに入っています。最初から活動を共にしている安井鷹之介に加え、7作目以降は4名のアーティストが壁画制作に加わり、パワーアップ。それぞれのアーティストによるすごい作品が生み出されています」と、活動にエンジンがかかってきた。

「このアート活動は、町全体をひとつの空間として捉えた"建築"だと思っています。アートに囲まれた豊かな空間の中で、子供たちと遊んだり、ランチを食べたり、ペットを散歩させたりと、地域の人たちや旅行に訪れた人たちが豊かな時間を過ごせる空間の建築。訪れる人を増やして町の復興を盛り上げていきたい」と高橋館長。

とはいえ、全長3.5kmに及ぶ防潮堤への壁画の制作は長丁場だ。加えて、公共物の防潮堤を使っているため入館料を取れず、マネタイズが難しい側面もある。今のところクラウドファンディングやスポンサー、助成金などで資金を集めているが、「あのサグラダファミリアもガウディ自ら寄付を募りながら造られていったように、協力していただける方や仲間を増やしながらこの活動を続けていきたい。世界に類を見ない巨大な防潮堤を壁画で彩る海岸線の美術館。いつか、サグラダファミリアのような世界遺産になれれば」と夢は膨らむ。

クラウドファンディングへの協力は、「海岸線の美術館 クラウドファンディング」でアクセス。

ペイント&コーティングジャーナル2024年11月20日付「いいいろの日特集」より



5作目の「岩戸開|The Opening」(関西ペイント提供).jpg
5作目の「岩戸開|The Opening」(関西ペイント提供).jpg
次々と作品が描かれていく.jpg
次々と作品が描かれていく.jpg

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