漆喰塗料塗布した和紙壁紙開発
内装市場で協業、海外展開も視野

関西ペイントは、越前和紙を製造・加工する小畑製紙所(本社・福井県越前市、社長・小畑明弘氏)と清水紙工(本社・福井県越前市、社長・清水一德氏)の3社共同で、越前和紙に漆喰塗料を塗布した漆喰和紙壁紙を開発した。4日、関係者が福井県庁で会見を行い、試作品を披露した。


このプロジェクトは、北陸を地場とする塗料ディーラーに長年勤め、現在漆喰塗料関連製品の販売を手がける和プラス(福井県福井市)の市橋勝社長が、関西ペイントと企業2社を引き合わせことがきっかけ。関西ペイントは昨年、フィルムや不織布など多種多様な素材への適応を可能にしたフレキシブル(弾性)漆喰塗料「アレスシックイモンティアート」を開発し、用途展開を積極化。一方の小畑製紙所、清水紙工も越前和紙の機能化による用途拡大を目指しており両者の思惑が一致した。

このプロジェクトに対し福井県は、地域産業の振興を目的とした平成29年度産学官金連携技術革新推進事業に認証し、900万円(単年度)の開発費を支援。「抗菌・抗ウイルス機能を持つ和紙壁紙の開発」をテーマに、福井工業大学(技術対策・デザインサポート)、工業技術センター(試験評価)、福邦銀行(資金支援)もメンバーに加わり、開発を進めている。

会見の席に立った関西ペイント・上席執行役員の中野佳成氏は「和紙の持つ素材感やデザイン性、調湿性に、漆喰塗料の抗菌性、抗ウイルス性を付与することができた。まずは学校や病院、介護施設へ提案を行っていきたい」と説明。「デザイナーからも早速使いたいと高い関心を頂いている」と扇子や包装紙などの用途展開にも可能性を示した。

今回開発したのは、木製パルプを原料とした和紙に漆喰塗料で柄や模様をコーティングする技術。紙の弱点である水性塗料を塗布するための物性確保や、強アルカリ性の漆喰塗料の性能を生かすため、本来酸性の和紙を中性化させるといった技術課題を克服。また塗工機も「従来の設備を応用することはできなかった」(清水氏)と液剤などすべて刷新した専用設備を配備し、量産化を実現した。

既に漆喰和紙を接着シートに貼り付けたインテリアシート(50cm角)を商品化、来月にも商社を経由して販売を開始する予定だが、壁紙用の展開のためには建築基準法で定める内装制限をクリアするための難燃材料認定が必要になる。

小畑氏は「加工処理ではなく、紙漉き工程での難燃化処理に着手している」と実現に意欲を示し、福井県、工業試験所も実用化に向け、サポートを続けていく方針を示した。

デザイナーとのコラボに期待

今回のプロジェクトの興味深いところは、古くから受け継がれてきた漆喰と和紙の伝統素材を融合し、室内環境改善に寄与する高機能素材を生み出した点にある。供給者サイドとしては、どのようにして市場性を付与し、トラディショナルで新しい価値を増幅させられるかが課題となる。

中野氏は「過去に壁に和紙が貼られているのを見た時、室内の湿度の変化で膨らんだり、縮んだりする表情に趣を感じた」と和紙とのコラボに至った経緯を説明。しかしその一方で「メーカーが行けば、製品の説明に陥ってしまう。市場にマッチしたものに落とし込めるかどうかは、デザイナーの力が必要」とし、市場価値の付与にはインテリアコーディネーターやデザイナーとの協業が不可欠と示唆する。

乾式工法やデジタルプリント技術の普及により、需要減少の憂き目にさらされているのは和紙産業も同じ。

会見に出席した関係者によると、越前和紙のピークは平成4年。当時、売上高95億円、90事業所があったのに対し、25年経過した現在は、売上高29億円、59事業所に減少。「越前和紙の3大需要である株式証券紙、襖紙、婚礼用小間紙が激減したことが大きい」とし、内装市場は和紙産業にとっても成長領域の位置づけにある。

木材やサイディングなど、さまざまな素材が建築内外装市場での拡大を見据える中、漆喰和紙壁紙がクロス一辺倒の内装市場に風穴を開けることができるか。伝統や和文化に裏づけされた歴史を強みに、将来的には衛生環境の悪いアフリカや中東諸国など海外展開も視野に入れる。

今のところ価格は未定だが、一般的な和紙壁紙がビニルクロスの3倍程度に対し、漆喰和紙壁紙はそれよりも更に高くなる見通し。

当面は、平成30年度の事業化に向けて開発を進め、事業化5年後の売上目標は1億円。まずはホテル、学校、介護施設、観光地のトイレ、シックハウス対策住宅向けに販売していくとしている。



試作品サンプル
試作品サンプル
左から小畑氏、中野氏、清水氏、市橋氏
左から小畑氏、中野氏、清水氏、市橋氏

HOMENew Trend漆喰塗料塗布した和紙壁紙開発

ページの先頭へもどる