職人の所得アップとダンピング防止を連動

建設塗装業界で今年、懸案の課題解決へ向けた動きが強まりそうだ。ひとつは、ダンピング防止への取り組み。職人など工事の担い手の目標年収を業界として定め、それを担保する標準請負単価をゼネコンなどの元請や発注者に浸透させ、安値受注競争から脱却する。発注側も共有する担い手確保の危機感を背景に市場の理解を求める。一方、懸案事項であった「特定技能外国人」の採用について制度が大幅に緩和、採用へのハードルが下がりそうだ。いずれも、昨年末に開かれた日本塗装工業会の全国支部長会で報告がなされた。


日本塗装工業会は年末の12月15日、東京のホテルニューオータニで「第100回全国支部長会」を開催、ほぼ2年ぶりとなる対面での支部長会が開かれた。

その席上で北原正会長は、「昨今の日塗装を取り巻く情勢に関して2つの大きな動きがあります」と述べ、下請け専門工事業によるダンピング防止へ向けた動きが本格化していることと、特定技能外国人の制度変更に伴い、採用へのハードルが大きく下がることを報告した。

ダンピング防止に関しては、日塗装を含め建設工事における各種専門工事業団体34団体で構成している「建設産業専門団体連合会(建専連)」において昨年秋から議論が白熱。

ゼネコンなどの下請けに位置する各種専門工事業者は、工事量の繁閑によって請負金額が決められ指値受注も頻発するなど、過度に低廉な請負金額(ダンピング)での競争環境に曝されている。担い手の確保や職人の処遇改善、働き方改革など喫緊の課題に対応するためダンピングからの脱却が急務とし、請負金額の適正化を図る。

具体的には、職人など技能者の評価の基準となる「建設キャリアアップシステム(CCUS)」の4段階のレベルに応じて最低年収を定め、技能者の所得を担保する金額を見積もりの際の標準請負単価に反映。まずは現行給与+2%程度を目標最低年収とし、職人の処遇改善を推し進める。専門工事業団体(職種)ごとで目標年収を定め、建専連として今年度末の公表を目指している。

同連合会の会議に出席している日塗装の加藤憲利副会長は、「建設業の担い手確保の危機感から、我々が認識している以上にダンピング防止へ向けた国交省やゼネコン団体の理解が進んでいる」と、建専連としての認識を説明。 

こうした動きを受け、日塗装としてもCCUSにおけるレベルごとの職人の最低年収を算出し、それを担保する請負単価を反映した標準見積書を作成、理事会の承認を得て正式採用する。全国2000社以上の会員に普及させていくことで、塗装工事の施工単価の適正な相場観を醸成していきたい考えだ。職人の所得向上、処遇改善へ向け施工単価の引き上げが実現するか、注目される。

「使える」特定技能制度に

一方、今回の支部長会では、「特定技能外国人」について今年4月から制度が緩和し、採用へのハードルが下がることについても報告された。

人手不足が深刻な産業分野において受け入れが可能となった在留資格の「特定技能」は、一定の専門性・技能を有し、即戦力となる外国人材を受け入れていく制度で2019年4月から施行。従来の技能実習制度と異なり外国人材の長期雇用が可能となった制度として産業界も期待、建設、介護、外食、農業など14業種が対象となっている。

このうち、建設業における「特定技能」に関して、今年4月から大幅な制度変更が行われると今回の支部長会で報告があった。

1つ目のポイントは業種区分の変更による特定技能職種の拡大について。

現行制度では、大工、板金、型枠、とび、左官など業種ごとに19区分に分類されているものが、①土木②建築(躯体)③建築(仕上げ)④公益インフラ・設備の4つの大枠での区分に変更され、それぞれの区分で多職種を内包。これにより、19区分に限定されていた現行制度からほぼすべての専門工事業種に特定技能外国人採用への枠が広がる。

例えば、③建築(仕上げ)であれば、現行指定業種の左官、内装仕上げ、表装、建築板金、吹付ウレタン断熱に加え、タイル張り、築炉、塗装(建築・鋼橋)、防水、サッシ施工などの業種も追加。日塗装の懸案でもあった塗装職種の特定技能枠への移行が果たされることになった。

更に、4区分の各区分内であれば、1人の特定技能外国人が従事可能な業務範囲が拡大するのもポイント。例えば塗装会社に従事する特定技能外国人がクロス仕上げや左官などの仕事に携わることも可能で、ひとつの職種に限定されている現行制度に比べて人材の流動性が高まる。

今回の制度改正について説明を行った日塗装の北原会長はこの点について、「特定技能外国人材をいわば多能工的に育成することが可能になったわけで、仕事の繁閑に合わせて活躍してもらう場が広がるなど柔軟で使い勝手のいい制度になった」と事業者の観点から制度変更を評価。

また、これまで各専門工事業団体が担っていた特定技能試験の作成と実施、現地での教育などをJAC(建設技能人材機構)が主体で行われるようになるのも制度変更の大きなポイント。「コストや業務面でも我々専門工事業団体の負担が軽減され、これまでハードルが高かった特定技能外国人採用への門戸が大きく開かれる」(北原会長)と制度変更に伴うメリットについて言及。実効性に乏しいと批評されてきた特定技能外国人制度が前進しそうだ。



2年ぶりに対面開催となった全国支部長会
2年ぶりに対面開催となった全国支部長会
北原会長は、日塗装の情勢変化について説明
北原会長は、日塗装の情勢変化について説明

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