最近、支援物資の投下や救護に臨むヘリコプターに目的地を示すための緊急手段として、建屋屋上に「学校」「病院」「市役所」と書き記された光景を目にする機会が少なくない。実は、その材料に蛍光塗料が使われている。視認性の高い蛍光塗料の特性を生かしたもので、多様な素材に簡単に塗布できる塗料が安全や事故防止に貢献している。国内で数少ない蛍光顔料と蛍光塗料を製造販売するシンロイヒの事例から蛍光塗料の現状を追った。

蛍光塗料は、元々発色性の強さを特徴に玩具や釣り具などのホビー分野、看板などで用途を広げてきたが、近年は自治体や鉄道会社からの需要が増加しているという。その背景にあるのは、社会全体に広がる防災、安全意識の高まり。事故を未然に防ぐ方策として、蛍光塗料を使って危険を伝える手法が広がっている。

防災を目的に消防署などの自治体施設での採用が始まったのは約20年前。

ヘリコプターの発着場を示すヘリポートや、上空からの誘導を目的に施設名称や識別番号を記すヘリサインに蛍光塗料が採用。紫外線に反応し、一般色と比べて2~3倍の視認性を持つ蛍光色が評価された。

「神奈川、東京で採用がはじまり、今は全国に広がりつつある」と担当者。採用施設も自治体関連にとどまらず、学校、病院、集合住宅、ショッピングセンター、サービスエリア、福祉センターと多岐にわたる。有事の際に施設の特定を円滑にするためだ。

一方、鉄道関係では、乗客の注意を引くために駅のホーム先端や階段に蛍光塗料の採用が増加。転落事故を未然に防ぐ目的があり「照明が暗い場所やホームドアが設置できない駅など用途は多い」と鉄道各社からの引き合いを高めている。

消防車、積雪地にも活用

安全、防災意識の高まりが蛍光塗料の需要を底上げしているとはいえ、需要家にとっては、数ある選択肢の1つに過ぎない。設備機器や印刷シートなど塗料以外の手段もあるからだ。

そこでシンロイヒが重要視するのは、"蛍光色材でなくてはならない"用途を見出すこと。「ボリュームを稼げるマーケットではないが、アイキャッチに応えるポイント使いに活路があると考えている」と話す。

その中で顧客からの問い合わせで思わぬ需要が生まれることもあるという。

その1つが消防車の塗装。元々、視認性の高い車色だが、「昼間は、太陽光の影響で認識されにくい」と蛍光塗料を丸ごとボディに塗るケースが出てきた。同じ赤系色ながら一般赤色と比べて視認性が3倍高いのが採用の理由。

また地域特性が蛍光塗料の需要を喚起したケースもある。

その代表的製品が雪面への塗装を対象にした「蛍光スノースプレー」。積雪で埋もれた境界や枠を蛍光スプレーで自在に描けるのが特長で3年前の発売以来、人気を高めている。水性タイプでかつ色も医薬品や化粧品にも使える法定色素を使用し、人体や環境に配慮した。

更に昨年は豚や牛などワクチン接種などの識別を目的とした「畜産用蛍光スプレー」を開発。"色"の価値を深掘りすることで、社会や需要家の課題解決に貢献している。