国交省、建設労働者の年収モデル公表

国土交通省は6月16日、建設キャリアアップシステム(CCUS)における建設技能者の職種別、レベル別年収を公表した。例えば建設塗装の場合、見習工(レベル1相当)の年収は499万円、基幹技能者に相当するレベル4では703万円(いずれも中位者)が示され、実態との乖離に戸惑いの声が出ている。担い手不足や若年者の入職促進で賃金アップは焦眉なものの、未だダンピングを強いられる市場構造の中で、下請けの専門工事業にその原資が行き渡るかなど、波紋を広げている。


国交省が6月15日に開いた「建設キャリアアップシステム処遇改善推進協議会」を受け、CCUSにおける職種別、レベル別の年収を公表した。

CCUSは、建設技能者が保有する資格や現場での就業履歴などを登録・蓄積して市場横断的に能力評価につなげる仕組み。見習工相当のレベル1、中堅技能者のレベル2、職長として現場を仕切れるレベル3、高度なマネジメント能力を有する登録基幹技能者相当のレベル4まで設定。そのレベルに応じた年収を職種ごとに公表した。

公表に当たっては、週休2日を確保した労働日数234日を前提に、公共工事設計労務単価が賃金として行き渡った場合に考えられるレベル別年収を試算した。この公表を通じて、技能者の経験に応じた処遇と、若い世代がキャリアパスの見通しを持てる産業を目指すことで担い手不足解消につなげるのが狙いだ。試算に当たっては、各レベルの標本のバラつきを考慮し、それぞれのレベルで上位(15%)、中位(70%)、下位(15%)に分けて試算した。

公表したCCUSレベル別年収によると、建設業の全職種平均ではレベル1の技能者が501万円、レベル2・569万円、レベル3・628万円、レベル4・707万円(各レベルとも中位者)。

このうち、建設塗装の技能者に関しては、レベル1=下位372万円、中位499万円、上位625万円▷レベル2=下位434万円、中位573万円、上位713万円▷レベル3=下位481万円、中位642万円、上位803万円▷レベル4=下位549万円、中位703万円、上位858万円との年収モデルが示された。

今回公表された建設技能者の年収モデルに対して、「実態より相当高い賃金が示されている」(専門工事業関係者)と疑問の声が挙がっている。CCUSレベル別年収で示した金額に法的拘束力はなく、義務ではないが、「金額だけが独り歩きして使用者と労働者の間に混乱が生じるのではないか」との声だ。

加えて、今回の試算のベースが公共工事の設計労務単価のため、競争が激しく、ゼネコンなど元請けによる安値受注が横行している民間工事で、「下請けの専門工事業者に賃金の原資が回ってくるかは甚だ疑問。2次、3次下請など重層構造の下位になるほど不可能に近い」(同)と疑問を呈する。

更に今回の国交省の公表が、専門工事業業界の頭越しに行われたことに対するいら立ちもある。

建設技能労働者の賃金アップに向けては、各種専門工事業団体34団体で構成する「建設産業専門団体連合会(建専連)」でも国の方針を受けて昨年から技能者の処遇改善の作業に着手。建専連に属した各専門工事業団体でCCUSのレベルに応じた目標最低年収を定め、職人の所得向上へ向けた作業を進めていた。その最中に、国交省の公表が唐突になされたかたちだ。。

公表から間もない6月23日に開かれた日本塗装工業会の全国支部長会でもこの問題に触れ、加藤憲利会長は、「(日塗装が属している)建専連でも戸惑いを隠せない、むしろ憤りに近い感覚を持っている。今日、明日でどうこうなるという問題ではないが、動向を注視し動きがあれば逐次報告したい」と述べた。

建設業における担い手不足、高齢化、若年入職者の促進、そして労働者の賃金アップによる経済の好循環など国の思惑も重なって公表された建設技能者の年収モデル。今の建設業界のヒエラルキーの中で、現場の末端まで行き渡って実現するのか、波乱含みだ。



分野別でのレベル別年収の試算例
分野別でのレベル別年収の試算例
CCUSレベル別年収
CCUSレベル別年収

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