地方の橋梁修繕完了率が低水準、"人材"に寄与する工法へ

社会インフラの重要な役割を担う橋梁における維持管理の重要度は高い。国が定めた5年に1度の目視点検が2巡目に入る中、地方では橋梁修繕工事の状況が思うように進んでいないことが明らかになった。課題と思われるのが予算確保や人材不足で、そこに塗料・塗装の付加価値を見出す動きも見られている。(P&CJ社会インフラ特集2023から)


今年の動きとして、鋼構造物分野の塗料需要は大きな増減はなく比較的堅調に推移している。社会インフラの役割を担う橋梁や鉄塔などは、コロナ下であっても修繕工事がほとんど通常通りに行われたため、「コロナ禍の影響で塗料需要が落ち込むことはなかった」(塗料メーカー)状況で、この分野の底堅い需要が改めて示された。

鋼構造物塗装市場のメインとなるのは塗り替え需要だ。今後は風力発電をはじめ再生エネルギー関連施設が作られることで塗料・塗装需要が増えることが期待されるものの、新設の橋梁や化学プラントは少なくなっているのが実状となっている。
近年、橋梁修繕工事で多いのが鉛やPCB含有塗膜の剥離工事だ。PCB特別措置法において低濃度PCB廃棄物の処分期間は令和9年3月31日までに終わらせることが決まっているためだ。

塗膜剥離では剥離剤を使用した湿式工法やブラスト工法、特にここ数年で更に勢いが増している循環式ブラスト工法などが採用されている。
昨年5月厚生労働省は「剥離剤を使用した塗膜の剥離作業における労働災害防止について」を通達。剥離剤に含まれる化学物質への引火による火災や、吸入による中毒事案が頻発している状況を鑑みて、剥離剤を使用する作業において講ずべき措置をまとめた。
更にこの通達が注目されるポイントとして、鉛中毒予防規則に規定されている「含鉛塗料のかき落とし業務は著しく困難な場合を除き、湿式によること」という箇所について説明した。

ここで言う「著しく困難な場合」とは「サンドブラスト工法を用いる場合又は塗布面が鉄製であり、湿らせることにより錆の発生がある場合等をいうこと」と説明した。
つまり、鉛塗料のかき落としには剥離剤を使った湿式工法だけでなく、ブラスト工法でも施工可能ということを意味する。循環式ブラスト工法の採用が増えている背景として、昨年の厚生労働省の通達の影響も大いにあると見られる。
今後も全国的にPCB含有の塗膜除去を含めて塗り替え工事は多く発注されることが想定されている。
PCB関連の塗り替え工事は金額が張るため、工事の発注件数としては一時期減っていたこともあったが、「今は剥離作業を踏まえた予算が組まれており、発注件数は戻っている」(塗料メーカー)との見方がある。
いずれにしてもPCBや鉛除去に限らず、鋼構造物の維持管理に関しては国としても強化しており、計画的に修繕工事を進めている。

目視点検が2巡目、達成率83% 道路メンテナンス年報

国土交通省は8月に道路メンテナンス年報を公表した。道路インフラの現状や老朽化対策として、点検の実施状況や結果を取りまとめている。
現在、すべての道路管理者(国土交通省、高速道路会社、地方公共団体〔都道府県・市区町村〕)は2013年の道路法改正により、2014年から5年に1回の頻度で近接目視による点検を実施している。

健全の診断は、Ⅰ健全、Ⅱ予防保全段階、Ⅲ早期措置段階、Ⅳ緊急措置段階の4段階に区分される。
橋梁はトンネル、道路付属物(歩道橋、門型標識など)とともに、2014年~2018年度において1巡目点検が完了し、2019年度より2巡目の点検が始まっている。
2巡目(2019年~2022年度)における橋梁の点検実施率は83%で、約70万橋のうち約60万橋で点検を実施しており、国交省は「着実に進捗している」との見方を示す。
過年度(2014年~2022年度)における判定区分は、Ⅰが42%(約30万橋)、Ⅱが50%(約36万橋)、Ⅲが8%(約5.8万橋)、Ⅳが0.1%(677橋)となった(四捨五入の関係で合計値が100%を超える)。

2022年度末時点では、修繕が必要な判定区分Ⅲ及びⅣの橋梁は5万8,888橋であった。1巡目点検時は区分ⅢとⅣが計6万9,000橋であったことから、年々着実に減少している。
また、修繕措置の実施状況を見ると、1巡目点検で早期措置が必要な状態(区分Ⅲ)または緊急に措置が必要な状態(区分Ⅳ)と判定された橋梁のうち、修繕措置に着手した割合は国土交通省99%、高速道路会社95%、地方公共団体75%であった。
更に完了した割合は国土交通省70%、高速道路会社75%、地方公共団体56%となった。
国土交通省や高速道路会社に比べて、地方管轄の橋梁については措置完了率が低水準であることが分かった。

更に判定区分Ⅲ及びⅣの橋梁は次回点検まで(5年以内)に措置が必要であるが、地方公共団体において5年以上経過しても措置に着手できていない橋梁は約2割(約1万2,000橋)となった。工事にかかる予算や人材が十分でないことの影響が考えられる。

点検時に作業者自ら簡易補修、スプレー塗料が続々

目視点検が義務化される中、点検作業から実際に本格補修工事に着手するまでには一定の期間を要する。更に「道路メンテナンス年報」によれば、地方では修繕する必要があると判定された橋梁でも完了率が低水準であることが分かっている。
そこで注目されつつあるのが点検時の簡易補修として適するエアゾール式塗料だ。

例えば、鋼構造物向けの簡易補修として早くに製品化した日新インダストリーの「変性エポスプレーNEXT」は、2液形の変性エポキシ樹脂塗料をそのままエアゾール充填することで、性能を変えることなく2液形塗料をスプレー塗装できる設計としている。点検時に露出した鉄筋の補修に適し、誰でも簡単に使用できる防錆塗料として高速道路などで使用されている。
大日本塗料は4月に塗布形素地調整剤「サビシャット」の2液エアゾールタイプの販売を開始した。十分な素地調整ができない箇所に対する簡易補修として展開する。
日本ペイントは昨年10月に「タフガードリペアスプレー」を上市。首都高速道路グループとの共同開発品で、コンクリート剥離部での剥落防止機能や、鉄筋露出部に対する防食効果を付与できる。
また、めっき補修用としてはローバルやエーエスペイント(日本ペイント防食コーティングスを合併)が、錆止め塗料のエアゾール式塗料を販売し、工場や現場での補修用として展開する。

エアゾール式塗料の販売が増えている背景には人手不足による影響が考えられる。橋梁の一時的な補修作業を点検作業者が行えれば、専門工事業者に委託する必要がなくなり、人手とともにコスト削減にも寄与できる。
そのため、橋梁の維持管理において「点検作業時にはスプレー塗装で簡易補修」の広がりが考えられる。
国内の少子化を考えると、社会インフラの修繕工事においても人材の確保・育成は重要な課題と言える。そのため、現場ニーズとしても塗装における省人化や生産性向上に寄与する技術が一層求められてくる。塗料としては錆面でも防食下地に寄与するシステムや超耐候性を持つ塗装でLCC削減を提案するなど付加価値展開を志向する。



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