"木らしさ"とどう向き合うか、木部意匠の多様性を訴求

木材保護塗料市場は、巣ごもり消費の恩恵を受けた2020年以降、減少傾向をたどっている。しかし、ここにきてメーカー各社の製品展開に活発さが出てきた。背景にあるのは、非住宅を中心とした木造建築物の増加。新設物件が直接的に需要に寄与するとの見方は差異があるが、既設建築物を含めて需要が喚起されるとの期待がある。市場の潮流と製品トレンドを探った。(屋外木部用塗料特集2023から)


本紙が推計した2022年度の市場規模は、メーカー出荷ベースで約53億円。直近3年間は、コロナ禍という特異事情があったとはいえ、コロナ前から表面化していた需要縮小の流れは着実に進んでいる。
元々、付加価値の高い市場のため、市場の離脱や方策転換を取る動きは少ないが、2023年度は社会経済活動の再開を受け、更に需要が鈍化する見通し。「しばらくは厳しい状況が続くかもしれない」(メーカー関係者)と危機感を高めている。

需要減少の要因は、コロナ禍における事業活動の停滞や消費行動の変化が一端に挙げられるが、最も大きな要因は住宅木部及び外装エクステリアの減少。木材保護塗料が対象とする屋外に木材を現しで使う部位そのものの減少が塗料需要の減少につながっている。
しかし、需要自体が地域に細かく点在するため、市場の全体像を捉えるのは難しい。このことが結果的に、建築塗料市場全体の約3.5%にすぎないニッチ市場に20社近くのブランドが介在する状況を生み出しており、今も新規ブランドが増えている状況にある。

興味深いのは、厳しい市況を強いられている反面、メーカー各社が新製品投入及び販売施策に活力を高めている点。シェア拡大を見据えたものが多いが、木材利用の活性化が需要喚起に寄与するとの見方がある。

住宅から非住宅へ

建築物における木材利用で目立つのは、公共施設、商業施設やホテルといったいわゆる非住宅系の建築物だ。
国産材を採用した新国立競技場がエポックメイキングな事例となり、CO2を固定化する木材の環境性能がSDGsやカーボンニュートラルと親和性を高め、中高層木造建築物の計画が相次いで打ち出されている。また公共建築物から民間建築物に範囲を拡大した木材利用促進法の改正が端緒となり、建築基準法の改正、補助金投入といった環境整備が進み、木造建築ブームを引き起こしている。その勢いはデータでも裏付けられており、2019年の中高層木造建築物の着工床面積約6,000㎡に対し、2022年は2万5,000㎡と飛躍的な伸びを見せている。

しかし、こうした旺盛な新設ラッシュに対し、メーカーのスタンスにはばらつきが見られる。木材保護塗料が住宅木部の塗り替えを中心とした汎用製品のため、物件ごとの対応を強いられる新設においては、製品体系、事業体制ともにリソースが不足しているとの認識があるためだ。また中高層木造建築物においては、耐久性や不燃材の対応など求められる塗料ニーズが異なる点も積極的な展開を抑制する要因となっている。それでも木造建築物の増加を製品展開で追い風に捉えたいとの見方は各社共通する。

今回の取材で、製品展開において特に顕著だったのが、カビ対策に着眼した開発。美観を阻害する課題として指摘されていたカビ対策を講じた投入が目立つ。
背景にあるのは、生地仕上げに対する人気の高まり。色、素材感とも"木らしさ"を表現しようと無着色仕上げの増加がカビの問題を大きくしている。
一部メーカーは、過去からクリヤー塗料や生地色を投入しているが、意匠性と性能の両立において抜本的な解決には至っていない。そこで新たな方策として出てきたのが防カビ剤を配合した下塗り剤。以前から木材防腐剤メーカーは、木材保護塗料の下塗りとして有効性を訴求していたが、生地仕上げの人気が実用性を高めている。

その一方で、新規技術として木材の汚れや劣化層を簡易に除去する木材ブラスト工法(大谷塗料)が登場した。近年、塗り替え市場においては、劣化木部を明るい色に再現できるとして、隠蔽性を高めた半造膜及び造膜タイプの人気が高まっていたが、ブラスト工法は素地ニーズに応える新工法。防カビ対策と同じく、生地仕上げニーズに応える方策として共通する。
木材保護塗料を含む建築木部用塗料市場をあえて極端な言い方をすれば、需要家が求める「木材のナチュラルな風合いを長く持たせたい」という難題と戦いを続けている市場とも言える。そのための方策として、定期的な塗り替えを訴求し、半・造膜型による耐久性の付与、これから下地処理の提案に向かおうとしているが、業界側としては一方で、"木らしさ"を需要家に伝える役割も担っていると考える。

美観や劣化に対する定義や捉え方の違いが、経済性や環境への負荷を高める可能性も否めない。多色化や木材の灰色化をポジティブに捉える欧米しかり、"木らしさ"の多様な価値観を発信する重要性が増している。市場が縮小する中での差別化戦略だけでは、社会の信用を失う危惧もある。木造建築物を普及させる視点において、業界側の共同戦線にも期待したい。



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