住宅塗装活性化の鍵はB to Cセンス
ストックビジネスの有望性鮮明に

住宅の塗り替え市場が低迷している。物価高による消費マインドの委縮や、旅行やレジャーなどコロナ明けの消費の分散で自宅のリフォームの優先順位が後退、外壁・屋根の塗り替え需要にも影響が及んでいる。この市場は、建築用塗料のボリュームゾーンだけに活性化が欠かせない。活躍している塗装店の事例などを通じて、需要活性化の方向を探る。


「昨年の夏ごろから問い合わせが減ってきた」と、住宅塗り替えを専門とする塗装店は口を揃える。チラシやホームページなどによる反響営業を行う中で、問い合わせや見積依頼などの反響が目に見えて落ちてきたと言うのだ。

昨年5月に新型コロナ感染症が5類に移行し、それまで抑えていた旅行やレジャーに消費が分散。加えて、物価高により消費者の実質所得は下がり、大きな出費を控えるようになった。十万円単位で楽しめるレジャーにはお金を使うものの、百万円を超えるような大きな出費は控える。雨漏りなどの緊急性があるわけでもないし、先延ばししても問題がない。塗り替えの優先度が後退している理由だ。

こんな指摘もある。「リーマンショックの影響で、2009年に新設住宅の着工件数が大きく落ちた。その頃に建てられた住宅がちょうど1回目の塗り替え時期を迎えており、そもそも塗り替え対象のストックが少ない」と見る関係者もいる。

コロナ禍を挟んだ消費の変動、実質所得の低下による消費控え、そして塗り替え適齢期のストックの減少などの要因も重なり、住宅塗り替え市場が低迷している構図だ。

ただ、悲観論ばかりではない。住宅ストックも含め、既存の建物を対象としたビジネスの安定感や成長性も示されている。

日本塗装工業会が今年3月に発表した、会員会社(2,253社)の2023年度の完成工事額は9,501億円と、1兆円の大台が射程距離に入ってきた(8面に関連記事)。

日塗装の完工高は、1996年の1兆330億円をピークに下降。リーマンショック後の2011年には7,010億円まで落ち込んだものの、そこから上昇基調に転じ、ピーク時の1兆円を伺う水準まで回復してきた。

ただ、以前と違うのは工事の中身だ。前回1兆円を超えた90年代の半ばは、改修工事と新築工事の比率が6:4だったのに対し、2023年のデータでは改修工事が85%と圧倒的な比率を占めている。しかも塗装市場が底を打った2011年からは、改修需要の増加がそのまま完工高の回復をけん引しており、建物ストックを対象としたビジネスの有望性を示している。

マンション大規模修繕を始め、テナントビルや官公庁物件の改修、工場や倉庫の営繕など既存の建物の改修需要が建築塗装市場を引っ張ってきたのは容易に想像できる。

ただ、それらの改修物件が管理組合や組織によって計画的に行われるのに対して、戸建など住宅の塗り替えは持ち主の一存によって決められる点に決定的な違いがある。従って、自宅の塗り替えへの動機づけをいかに行うかがやはり課題だ。

そこへの切り口として、デザイン性の高い塗装を強みにしている事例を特集の中で紹介している。「ご近所への見栄え」といった施主の心理をくすぐり、受注に結び付けている事例だ。

また、小規模塗装店が指向する地域密着展開では、「地域の共感」を育むハートフルな活動が塗装ビジネスを後押ししているケースも取り上げた。これからの時代、「共感」のキーワードがますます重要になりそうだ。

住宅の塗り替え市場は、個人消費を対象としたいわばB to Cビジネス。塗料も施工サービスもそのセンスをいかに磨いていけるかが、需要活性化のカギを握っている。(ペイント&コーティングジャーナル建築塗料・塗装特集(春)から)



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