塗装会社が生んだヒット商品「魔法ローラー」

昨年から塗装業界で旋風を巻き起こしているローラーがある。ヤグチ技工(矢口信也社長=写真)が開発、発売した「魔法ローラー」だ。それまで不可能だったローラーによる吹付柄の再現を、誰でも簡単に行えるようにした魔法のローラー。マンションや戸建てなどの改修現場で、「吹付仕上げの補修が嘘のように簡単になった」と評判を呼び、塗装職人らに飛ぶように売れている。ヒット商品の秘密に迫った。


「魔法ローラー」は、吹付タイルの玉模様やヘッドカット、リシン、スタッコなど吹付工法でしか表現できなかった柄をローラーだけで再現できる発明品。マンションや戸建て、ビルなど吹付仕上げの建物の改修現場で活躍する。爆裂、欠損、塗膜剥がれなどの補修で、下地処理により失われた既存の吹付柄をローラーだけで再現できる。

使い方は簡単だ。補修箇所にアクリルタイルローラー用を配り塗りし、塗料用シンナーをつけた魔法ローラーを追っかけで転がすと、いとも簡単に吹付柄を再現。「吹き放し玉模様」「ヘッドカット」「リシン」「スタッコ」「スタッコヘッドカット」の柄を揃え、4、7、9インチで展開。ローラー自体は洗浄してずっと使い続けられる

それまで、吹付柄は吹付塗装でしか再現できないというのが業界の常識だった。このため、小面積の補修でもコンプレッサーやホース、ガンを持ち込んで作業に当たっていた。それに加えて大変なのが養生作業だ。周りへの飛散を防ぐため大掛かりな養生を必要とし、時間も人手もかかっていた。

「魔法ローラー」はそれらの問題を解決した。重い機材を現場に運ぶ必要もなく、養生も足元などの最小限で済む。そして、吹付柄の再現性の高さに「ローラーでここまでできるのか」と多くの職人が目を見張った。昨年5月の発売から1年、販売数は2万本に迫る勢いだという。開発者でもあるヤグチ技工の矢口信也社長に話を聞いた。

――「魔法ローラー」の開発の経緯を教えてください。
「当社はマンション大規模修繕を主体とした施工会社だが、改修工事について回る吹付柄の補修作業を何とかできないかと考えていた。機材の持ち込みだけでなく、1箇所あたりの面積は小さくても、それが何十カ所となると養生だけでも大変な作業量になる。そこで2年ほど前から、吹付柄を再現できるローラーの開発を始めた」

――何かヒントはあったのですか。
「当社は施工事業の一方で、"現場の困った"を解決する発明品を開発しているメーカーでもある。これまで、Uカット+シールを行わずにクラック処理ができる独自工法(TNC工法)や、タイルの色や柄、艶をリアルに再現する張り替え用復元タイル(クローンタイルJ)を開発。公共物件にも採用されるなどロングセラーを続けている。このうち、張り替え用タイルの製造方法がヒントになった」

――といいますと。
「このタイルは躯体の動きに追従して割れないようウレタン樹脂を基材にしており、タイルの表面のテクスチャーはシリコンの型で成型している。表面の凹凸柄を成型できるこの技術を応用し、魔法ローラーの開発を進めた」

――もう少し聞かせてください。
「吹き放し玉模様やヘッドカット、リシンなど実際の吹付柄をシリコンで型取りし、そのシートを円筒状に加工してシリコンの型を作製する。そこに熱硬化のウレタン樹脂を流し入れてオーブンで熱をかけ、硬化後に型から抜くと表面に吹付柄が逆転写されたローラーができあがる流れだ」

――開発でのポイントは何ですか。
「クローンタイルの製造で導入していた真空注型機がポイント。これにより、リシン柄など目の細かい型の隅々まで隙間なく材料を充填でき、複雑な形状のローラーがつくれる。吹付柄を再現できるベストの硬さを探り、基材のウレタン樹脂の硬度も調整した。ローラーをどれくらいの圧力で転がせばリアルな吹付柄が再現できるかなど試行錯誤を繰り返し、誰でも簡単に使える実用的なローラーに仕上げた」

――ヒットの理由をどのように見ていますか。
「養生を大幅に省けることが大きい。そこに要する人手もコストもゴミも減らせ、職人不足や環境対応といった社会課題にも符号。簡単に使えるのもやはりヒットのポイントだ。吹付タイルが国内に導入されてから約60年、吹付柄をローラーでリアルに再現する、誰も成し得なかったことのインパクトが大きいのだと思う」

――意匠登録を取得しています。
「それまでどこにもなかったため、『ローラーで吹付柄を再現できる』という広い概念で意匠登録された。それだけ新規性があったのだと思う」

――今後の予定を聞かせて下さい。
「吹付柄も目の詰まり具合やパターンの大きさなど現場によって違いがあり、バージョンを増やしてほしいとの声がある。従って、現在のパターンのそれぞれで、いろんな現場に適合できるようバージョンを増やしていく。また、要望の多い入隅用ローラーや、吹付の上にゆず肌が塗られた改修後のパターンの型も取り、追加していく。全国の塗装職人さんに、常備品として持ってもらうのが目標だ」

――ありがとうございました。
(ペイント&コーティングジャーナル建築塗料・塗装特集2024Ⅰより)



矢口信也社長
矢口信也社長
左から玉模様、ヘッドカット、リシン
左から玉模様、ヘッドカット、リシン

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