日本一の塗装職人が挑む"3つの彩り"経営

かつて「全国建築塗装技能競技大会」で最優秀賞の内閣総理大臣賞に輝き、日本一の塗装職人の称号を手にした沼田亮氏(写真)。昨年から家業の沼田塗装店の社長に就任し、経営者としての仕事にまい進中だ。目指すのは、社員と顧客と地域にハッピーをもたらす「3つの彩り」に溢れた会社。3者相互のWin-Win-Winの関係を構築し、成長を目指す。

 


神奈川県葉山町。昨年、「全国住み続けたい街ランキング」で1位に輝いた町だ。海と山に囲まれた豊かな自然、暮らしやすい環境、都心へのアクセスの良さもあり転入超過が続いている人気のエリア。

その葉山町に拠点を構え、隣の逗子市にまたがる逗子・葉山エリアを主な商圏としている沼田塗装店。創業70年を超える老舗塗装店だ。「元々は沼田塗料商会という塗料販売店から始まったのですが、地域の方々から自宅の塗装工事の依頼を多く頂くようになり、"町のペンキ屋さん"として歩んできました」と沼田亮社長。同社の強みであり大切にしているのが、この"町のペンキ屋さん"としての位置づけだ。

「葉山町の住宅戸数約1万棟のうち、統計的に毎年百数十棟のお宅が塗り替え工事を実施しています。そのうち40%超を当社で施工しており、隣の逗子市でも25~30%ほどのシェアを獲得している」と圧倒的な"地域一番店"として存在。海沿いのため塗り替えの頻度が高く、メンテナンスへの意識が高い人が多く住むエリア。塗装事業にとって恵まれたこの地で、「更なるシェアアップを狙う」のが基本戦略だ。

このため、「集客やプレゼンなど、それまで手薄だった塗装営業のスキルを高める」ことを目的に、アステックペイントが運営する「プロタイムズ」に4年前に加盟。紹介やOB顧客以外の新規営業での受注件数を伸ばし、シェアアップを図っている。

その一方で、地域とのつながりに重点を置いた取り組みにも注力。地域の各種イベントへの参加や、塗装体験会など地域の子供たちを交えたボランティア活動、地元中学校の職業体験の受入れなど地域との関りを深めている。
 「この地で事業を営んでいることへの感謝をさまざまな地域活動で還元しています。特に子供たちとの関わりは、将来の担い手の確保や地域における雇用の創出も視野に入れ、良い関係づくりに努めている」と"地域の彩り"へ寄せた活動を継続、共感を育んでいる。

もちろんそこには、"お客様の彩り"と位置付けた顧客満足がベースにある。地域密着で展開している以上、信頼を貶めることは命取りになるからだ。

沼田氏自身が日本一の塗装職人に輝き、同社の職人も全国技能競技大会で4位に入賞するなど、技術・技能に対する厳しい姿勢が同社の伝統。その優れた施工品質と、「塗っておしまいではなく、そこからが本当のお付き合い」というように手厚いアフターフォローを継続、地域密着展開のベースとなる顧客満足を確かなものにしている。

すべての基点は"会社の彩り"

同社が企業理念の基本に据えた「3つの彩り」。地域貢献に向けた"地域の彩り"と顧客満足への姿勢を示した"お客様の彩り"、そしてその2つの達成に欠かせないのが、"会社の彩り"と称した社員満足の向上だ。良質な塗装工事の提供も、地域を盛り上げる活動も社員の頑張りなくしては叶わない。従っていかに社員満足を高め、仕事や地域活動へのパフォーマンスを高めてもらうか、昨年の社長就任以来一段と力を注いでいる部分だ。

その1つとしてユニークなのが、福利厚生の取り組み。「現在、ファイナンシャルプランナーの財務コンサルと契約しており、確定拠出年金の運用や投資信託のアドバイス、保険の見直しなど社員が無料で相談できる仕組みを整えています。社員が将来困ることのないようにしたいのと、自分のお金を運用するスキルを身に付け、視野を広げてほしいから」と説明、社員に好評だ。

また、視野を広げるといった観点では、外部の研修の受講も社員に奨励し「私自身、能力開発の研修を受けたときに考え方や価値観が大きく変わり、視野が広がったことを実感しました。そうした経験を社員にも共有してもらい、多様な価値観を身に付けてほしい」と人材教育にも注力する。

更に、「各種資格の取得にもチャレンジするよう仕向けています。資格は、自分の挑戦の目に見える証。仕事との関係性は問わず、挑戦するというポジティブな雰囲気を醸成するためにも、『資格を取ろう』と社員に働きかけています」と説明。"会社の彩り"を華やかにするための取り組みに余念がない。

同社の社員数は現在8名。施工管理を兼ねた営業の人員と営業サポート、業務、総務と2名の直職人などで構成。施工に関しては10社の協力会社を擁し、常に20~30人の職人が動いている。「年に2回ずつ開いている職人会議や安全大会などの行事だけでなく、日頃から職人さんたちとのコミュニケーションを密にしており、社員と協力会社、協力会社同士のチームワークもいい」とその点での心配はない。

ただ、建設業の働き方改革や中小企業にも寄せられる賃上げの波など「経営課題は多い」と口元を引き締める。そうした課題を乗り越えるためにも、「ある程度の規模感を持ち、経営効率を高めていかなければならない」とし、横浜など近隣の大きな商圏への拡大や公共工事への進出も見据える。

社長に就任してもうすぐ1年。日本一の塗装職人の称号を持つ経営者の挑戦は、これからが本番だ。



沼田亮氏
沼田亮氏
沼田塗装店
沼田塗装店

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