テクノロジーによる近未来の塗装が幕を開けている。プラント向けドローンソリューションプロバイダーのアイ・ロボティクス(本社・東京都渋谷区、社長・安藤嘉康氏)は日本製鉄(日鉄)などと共同で、ドローンと壁面吸着ロボットを組み合わせた外壁塗装の自動化システムを開発。大型の建物の改修における足場レス、作業者レスの塗装工事が進められている。日鉄構内のプラントや建屋を始め、ENEOSの石油タンクの外壁補修塗装などで実績を積んでおり、社会実装が進んでいる。加速するインフラ施設の老朽化と、メンテナンスに要する人手不足問題のソリューションとして注目されている。
高度経済成長期に集中的に整備された国内の社会インフラに老朽化の波が押し寄せている。今後20年間で、建設後50年以上を経過する施設が加速度的に増加する一方で、それらのメンテナンスに要する人手不足も加速。インフラの維持管理に関する構造的な問題が横たわっている。
民間の企業にとっても事情は同じだ。特に、沿岸部の立地が多い製鉄所などでは、プラントや建屋外周の補修塗装の頻度が高いものの、職人不足の問題でメンテナンスに支障をきたすリスクが増大。その解決を目指した日本製鉄と、相談を受けたアイ・ロボティクスが共同で外壁補修塗装の自動化システムの開発に着手、2年ほど前から実物件での運用を始めた。
アイ・ロボティクスは、プラントやインフラ設備の建設、メンテナンス施工におけるロボット・ソリューションを一貫して行っているベンチャー企業。ドローンやロボットによる点検・調査・測量に加え、塗装や高圧洗浄、打音検査など物理的な作業の自動化システムを開発、注目されている企業だ。
同社が日本製鉄などと共同開発した自動塗装システムは、ドローンと塗装作業を行う壁面吸着ロボット、それらの機器を操作するコントローラーなどで構成されている。
ドローンは壁面吸着ロボットの落下防止のための吊り元として上空で静止。実際の作業は塗装機器を積載した壁面吸着ロボット(写真)が中心的な役割を担う。
フレームで長方形に組まれたこのロボットは、背面に備えたプロペラで壁方向に押し付け、垂直の壁面に吸着。壁との距離を一定に保ちながら、電動ウインチで移動を制御する。その精度は、上下左右の移動を1cm方眼で制御できる精密さだという。
このロボットに作業の目的に合わせた機器を搭載し、機械化(無人化)、遠隔化、自動化で各種の作業を行う。壁面の補修塗装ではロボットに吹付塗装機を積載、地上から圧送された塗料を吹き付けて塗装作業が行われる。ユニットを洗浄機に積み替えることで、塗装の前工程の高圧洗浄も可能だ。ドローンや壁面吸着ロボット、各種の作業機器を地上のコントローラーで遠隔操作しながら、高所における足場レス、作業者レスの作業が実現している。
アイ・ロボティクスの安藤嘉康社長は、「ドローンやロボットを精密に制御するプログラミングや通信技術、正確に作動するハードウエア、塗装機のコントロールや塗料の粘度調整、膜厚管理などさまざまな要素技術の高度なすり合わせがポイント」と説明。塗装の自動化に関しては、塗料メーカーや塗装機器、塗装職人など専門家の知見を交えながら開発を進めた。
既に日鉄構内のプラントや建屋の外壁補修塗装で運用を重ねている他、石油大手・ENEOSの石油タンクの外壁補修塗装でも実証実験が行われ、トライアルが続いている。「このような大型の構造物では、足場の設置がない分工期は大幅に短縮。コスト的には今のところ従来工法と同等だが、普及が進めばコストも低減していく」と現状を説明。
「開発段階で言えば今は3合目あたり。現場でのトライ&エラーを重ねてバージョンアップを図り、完成度を高めている。このため数多くの現場を経験することが重要」とし、塗装メンテナンスの自動化に関心のある企業や施設管理者との共同事業を進めていきたい考えだ。
また、「塗料や塗装に関しては、我々は素人。先ほども言ったように、多くの要素技術のすり合わせが重要なので、塗料・塗装業界の企業や関係者とも連携していきたい」と呼び掛ける。
安藤氏は、「インフラやプラントなど大型構造物の老朽化でメンテナンス需要が増大するのに対し、それを担う人手不足の加速や資材高騰によるコストアップなど、従来の方法では立ちいかなくなる可能性が高まっている」とし、補修塗装作業の自動化、機械化を急ぐ。
「もちろん、細かい作業は不得手などロボットにも限界がある。従って、人の手でしか作業できない箇所は人が、ロボットに任せられるところはロボットでというように、人とロボットのすみ分けによってより多くのメンテナンス需要をカバーしていく発想が求められている」とし、ロボットによる自動化塗装の社会実装を進める。
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