戸建てなど住宅の塗り替え市場の低迷が続いている。約2,700万戸のストックを擁し、全国津々浦々まで広がるこの市場は、建築用塗料や塗装需要のボリュームゾーン。製販装の業界企業も多く関わるだけに、業界のムードにも影響する。
よく言われるように、コロナ禍が明け、旅行やレジャーなどに消費が流れたことや、物価高で家計が厳しくなり、自宅の塗り替えのような大型の出費を抑えていることが需要低迷の理由に挙げられる。
加えて、需要の先食いの影響もある。コロナ禍の最中の巣ごもり消費で自宅の修繕を行う家庭も多く、家の外で行われる塗り替え工事はコロナ前より却って活況を呈した。そこで需要を先食いした分、市況の低迷が長引いている実態もある。
その市場において、塗り替えサービスを提供する事業者の勢力図に変化が生じている。
1つは、家電量販やホームセンターなど大手小売業の攻勢だ。塗り替えサービスを全国フランチャイズで展開する塗装会社の麻布(本社・愛知県春日井市)を、家電量販大手のエディオンが子会社化して内製化したように、リフォーム事業の中でも塗り替えサービスに注力している様子が窺える。ホームセンターや家電量販店など敷居が低い場所には施主側も相談に行きやすく、消費者に近い業態であることを強みに大手小売業の攻勢が強まっている。
もうひとつは、ネットで塗装業者を紹介するポータルサイトの動きだ。
塗り替え工事を行う施主層は、団塊の世代からそのジュニア層に移ってきている。富裕な高齢者層に比べてコスト感覚がシビアな上、チラシを見て電話をするより、価格比較サイトで検討するパターンが世代的にも増えている。ポータルサイトが需要を吸収しやすくなっている背景だ。新聞をとる世帯も減り、折込チラシの効果も薄れている。
こうした勢力図の変化の中で、施主から直接受注して塗り替えサービスを提供する自社元請型の塗装店の事業環境も厳しくなっている。見えてくるのは2極化の流れだ。
1つは、多店舗化と多角化で成長を図る動き。市場が低迷する中、受注件数を伸ばすために多店舗化を進め、OB客の塗装以外のリフォームの獲得を積極化するなど、営業品目を増やす動き。地域一番店など、実力のある塗装店がその方向に向かっている。
また、一人親方など生業規模の塗装店に見られるのが、OB客からのリピートや紹介など信頼ベースで仕事を獲得しているケース。規模は小さいものの、他との競争にあまり巻き込まれることもなく、安定した経営を続けている。市場競争が激しくなる中、こうした2極化からあぶれた自社元請型塗装店の経営が厳しくなっている。
一方、住宅塗装市場で使われる「塗料」に変化の兆しが出てきた。有機・無機ハイブリッドのいわゆる「無機系塗料」に傾注する動きが、塗料メーカー各社で強まってきたことだ。
住宅の塗り替え市場では長らく、シリコン系塗料が主流を占めてきた。ただ、既にレッドオーシャンと化し、塗料メーカーだけでなく、塗装業者にとってもシリコン仕様はうまみがなくなっている。
特に、将来的な市場の縮小を想定せざるを得ない中で、塗料価格や施工単価のアップを進めて付加価値を高めることが、潜在的なコンセンサスになっている。今回の住宅塗装市況の悪化による危機感が、無機系塗料推進の導火線になっている側面もある。
人口減少や消費マインドの変化、建材の高耐久化などで市場の縮小が想定され、多様な事業者の参入でますます競争が激化する住宅塗り替え市場。今後の動向が注目される。
※ペイント&コーティングジャーナル「2024年10月23日付建築塗料・塗装特集」より
HOME建築物 / インフラ需要低迷と競争激化に揺れる住宅塗装市場