塗装の見積作業にイノベーション
面積計測アプリ「PictRuler」の全貌

日本塗装工業会が監修、昨年5月にリリースされた面積計算アプリ「PictRuler(ピクトルーラー)」の実力が明らかになってきた。壁や屋根の面積を自動的に計測し、図面の作成や見積書への落とし込みまで連動して行うアプリケーションで、それらの作業に費やしていた時間とコストを大幅にカット、塗装会社に便益をもたらす。昨年末には3D表示やカラーシミュレーション機能を追加。今後、クラック処理の見積もりへの落とし込みなども想定、更なる進化を目指す。一方でグーグルのサービスを利用した想像を超える利用方法も始まっている。


PictRulerは、デジカメやスマホなどで撮影した建物の画像から面積計算と図面化、概算見積書の作成までを自動的に行うパソコンやタブレット用のアプリケーションソフト。

従来のように工事に必要なすべての箇所の採寸を行う必要はなく、建物の高さ・幅・奥行きの基準となる3箇所だけを採寸すればいい。外壁の軒高、幅、奥行きを実測できればベストだが、不可能な場合は開口部など高さや幅の基準となる任意の箇所でいい。それらの実測値を基点に全体の箇所や部位の寸法と面積を推察するのがPictRulerだ。

しかも斜めの建物の画像で寸法を計測できるのがPictRulerの大きな特徴。建物を撮影する場合、上下左右いずれかのアングルからになってしまい、程度の差はあるものの画像は必ず斜傾してしまう。これに対して企画開発の豊田洋一氏(豊田設計)は「パース(透視図)の消失点から逆にたどって比率を算出し、距離を推察する逆パース法によって斜傾の課題をクリアした」と説明。撮影方法に気を使わずに済む、より実践的な計測アプリになった。

実践的という意味では操作性も大きなポイント。操作の基本は、マウスを動かして画面上のポインターで屋根や壁、窓、軒の出幅など計測したい部位や箇所の輪郭線をなぞるだけ。実測した箇所の数値を当該の輪郭線の数値として入力すると、その他全体の部位の長さや面積が自動的に、瞬時に算出される仕組みだ。「操作は全く難しくなく、例えば一般的な戸建住宅であれば30分もあれば作業が終わる。現場や施工の詳しい知識も必要ないので事務の女性の方でも作業でき、人材の活用面でもメリットが大きい」と同アプリの普及促進を担う日本塗装工業会技能委員会の柏光一委員長。

PictRulerで輪郭線をなぞっている作業がそのままCADによる立面図の作成に連動しているのも画期的な機能だ。「役所や企業物件、マンション改修などで必須の図面提出にも、改めて作図する必要がなく、寸法を自動的に拾っている作業がそのまま図面になるのは塗装会社にとってたいへん助かる機能」(柏氏)と利便性を説明する。

更に、PictRulerの計測値はExcelに落とし込めるため、項目ごとの単価を設定しておけば見積書も同時に作成できてしまう。極端な話、採寸で現場に訪れる際にノートパソコンやタブレットを持参すれば、PictRulerで素早く計測作業を済ませ、その場で概算見積もりまで提示できてしまう。  

一般的な戸建住宅を例に取り、「現場での採寸、図面の作成、積算作業、見積書の作成までこれまで5~7人工要していたものがPictRulerを使えば1~2人工で収まる。売上を伴わない作業だけに失注のリスク回避になると同時に、人手不足の折、会社全体の生産性を高める上でも意義は大きい」(柏氏)とメリットを強調する。

ちなみに、PictRulerはWindowsストアやAppストアで誰でも入手可能で、寸法や面積を計測する基本プランは年間3万円。CAD図面変換機能と見積作成機能はそれぞれ年間1万5,000円のオプション機能になるが、日本塗装工業会の会員は基本機能料金の3万円ですべての機能が使用できる。

利用者の声でブラッシュアップ

PictRulerは昨年暮れにバージョンアップされ、3D表示機能とカラーシミュレーション機能が搭載された。

3D表示は作業結果の確認の意味合いがある。輪郭線をなぞって寸法を自動的に拾っている作業が立面図だけでなく3次元の表示にも連動。輪郭線をなぞる作業にミスがあった場合、3Dではいびつな画像となって表示されるためミスが確認しやすいというわけだ。

また、今回のバージョンアップでは日本塗料工業会の色見本帳の全632色のカラーデータを取り込み、自動作成された3D画像でカラーシミュレーションを行えるようにした。屋根や壁の色を変えながら塗装後の外観イメージを確認することができる。

PictRulerの企画・開発に携わっている豊田氏は「まだまだ進化させていきたい」とコメントする。その一例で示すのは「クラックへの対応や足場の割付図」などの機能。クラックに関しては程度に応じた補修単価が見積書に反映されるような仕組みを想定、改修工事に有効なより実践的な機能を付加していきたい意向だ。豊田氏は「(PictRulerの)ユーザーから寄せられる意見や要望を開発に反映させ、ブラッシュアップしていくのが基本スタンス。そのためにもより多くの方にご利用いただき、多様な意見やご要望をお寄せいただきたい」とし、塗装工事に役立つアプリケーションとして進化を目指す。

一方で、PictRulerならではのユニークな利用方法もあると説明する。検索エンジン・グーグルの「ストリートビュー」の活用だ。世界中の道路沿いの風景をパノラマ写真で提供しているストリートビューから当該物件の外観画像をキャプチャし、面積算出を行う試みだ。「悪天候が続くなど何らかの理由で対象の建物の写真が撮れないとき、ストリートビューの画像を利用する手もある。窓など規定サイズの部位を基点に全体を採寸し、ある意味、現場に行かなくても採寸ができるようになる」(柏氏)と究極の利用方法を示す。

「PictRulerは輪郭線をなぞるのに画像を利用するだけで、本来の操作は画像の裏で行っている。画像を一切加工することがないのでできる利用方法」(豊田氏)と説明。PictRulerが塗装工事の見積もり作業にイノベーションを起こそうとしている。



PictRulerの操作画面
PictRulerの操作画面

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