首都高で大規模採用、水性化へ加速
2018年JIS化へ

重防食塗装で水性化の動きがいよいよ本格的になってきている。塗膜が橋梁やプラント設備など鋼構造物の長寿命化に大きく寄与するため、この分野では以前から溶剤系が圧倒的な割合を占めてきた。そんな中、昨年から首都高速道路の塗装工事で水性塗料が使用され、一部では公共工事においても同様の動きが出ている。業界側としては水性JIS化に取り組み、塗料メーカーは水性システムの製品体系を整備するなど積極的な姿勢が見える。

 


鋼構造物の塗膜には長期耐久性が求められるため、これまでは塗膜性能や作業性で実績のある溶剤系が使用されてきた。水性塗料の採用はというと、JR鉄道橋での試験施工や自治体の一部の歩道橋や道路橋、ガスタンクなど限定的なものであった。

そんな中、首都高速道路で水性塗料の本格的な採用に向けた動きが見られている。同社では2014年3月と2015年2月、塗り替え工事中に火災事故が発生。再発防止策を講ずる中で、塗料に関しては非危険物である水性塗料の本格採用を検討している。

昨年秋口には試験施工を実施。試験施工とはいえ複数の橋梁計2~3万㎡規模で下塗りの変性エポキシ樹脂系から上塗りのふっ素樹脂系までのオール水性塗装を使用している。

今年に入っても水性塗料の使用が続いており、塗り替えの本工事においても使用されている。完了工事と予定している分を合わせると、計20万㎡以上の発注が行われている。

同社では現在実施している塗装工事での水性塗装の性能や作業性などを見極めている。有識者などから構成されている専門委員会で来年2月まで検討を重ね、3月に新たな塗装指針を策定するものと見られる。順調に進めば、新年度からは新指針での水性塗装の全面採用になると予想される。

一方、その他の道路会社では水性塗装の採用については静観の構え。環境配慮の観点から水性化には関心は示すものの、試験施工など検討に向けた動きは見られていない。ただ、首都高速道路の今後の様子次第では検討し始める可能性もあるはずだ。

水性重防食システム本格化
DNT、日ペ、関ペ

塗料メーカーの水性重防食システムの展開を見ると、大日本塗料、日本ペイント、関西ペイントが積極的な動きを見せる。昨年の首都高速道路の試験施工でもこの3社が採用された。本工事の受注としては大日本塗料と日本ペイントの実績が多くなっている。

首都高速道路だけでどのくらいの塗料需要が見込まれるのか。これまでの実績で考えると、年間20~30万㎡の塗装工事が見込まれ、実際に最も多いと思われるRc-Ⅲ塗装系(3種ケレン)で考えると、下塗りから上塗りまでの塗料使用量は計660g/㎡。つまり、単純計算で年間132トン~198トンの水性塗料の需要が見込まれる。

既に一部の塗料メーカーの生産設備はフル稼働が続いている。首都高速道路の分だけであれば、見込み数量も計算できるため生産体制も組みやすく既存設備で対応できる。ただ、「今後更なる広がりが見られると生産増強や効率化を図る必要性が出てくるので、設備投資も検討する」との声もある。

上述の3社だけでなく、中国塗料と神東塗料でも水性重防食塗装システムの上市準備を整える。トウペは以前から水性化を図っており、タンクやプラントなど民間物件での採用実績を有する。

水性JIS化、2018年目標

公共工事の塗装工事において重要となるのがJISだ。現状、鋼構造物用塗料では水性JISはないが、日本塗料工業会は専門委員会を作り規格化に向けて取り組んでいる。

前段階として今年7月に日塗工規格を制定した。「鋼構造物用水性さび止めペイント」(JPMS 30)と「鋼構造物用水性耐候性塗料」(JPMS31)で水性単独規格として制定した。

まずは日塗工規格を制定し、鋼構造物向けにも水性塗料が使用できるとの認識を広めたい意向。実際、現場で使用されることで施工業者の使い勝手が分かりノウハウが構築される。JIS制定前に少しでも多く実績を重ねることが普及に向けた後押しとなる。

既に日本規格協会にJIS原案作成を応募しており、問題なく行けば11月下旬に採択される予定。12月にはJIS委員会を立ち上げて来年秋口に原案提出へと進んでいく。原案は専門委員会で審査されパブリックコメントを経て、予定としては2018年4月~5月に公布を想定している。

JISでは「構造物用さび止めペイント」(JIS K 5551)と「鋼構造物用耐候性塗料」(JIS K 5659)に水性塗料を加える予定。また、日塗工ではグリーン調達にも申請する意向を示している。

首都高速道路の水性塗装の本格採用の動きに加えて、JIS化されれば水性塗料の広がりに更なる追い風となる。本格普及には課題は山積しているものの、「この先、水性化に進むことは間違いない」との意見が支配的。そのときが迫ってきている。



長野国道大原橋では大日本塗料の水性重防食塗装系が使用された
長野国道大原橋では大日本塗料の水性重防食塗装系が使用された

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