塗装腐食対策費2兆4,900億円、2015年調査を公表 

腐食防食学会と日本防錆技術協会は20年を開けて腐食コスト調査を実施しており、これまでの第1回調査(1976~1977年)と第2回調査(1997年)に続き、このほど3回目の調査(2015年)を行った。3回目の結果は今年1月に発刊した「わが国における腐食コスト報告書」(1万1,000円)としてまとめている。発刊に際し、2月13日に東京、21日に大阪で講演会が行われた。


腐食コストは生産面からの直接的な腐食対策費を単純に加算したUhlig方式と、使用分野ごとに腐食事故による直接的損失と腐食対策費とを積み上げたHoar方式で調査している。

Uhlig方式は表面塗装、防錆剤、防錆油、表面処理、耐食材料、電気防食、腐食研究、腐食診断で集計している。

一方、Hoar方式はエネルギー分野(水道、ガス、電力)、運輸分野(鉄道、船舶、自動車、航空機)、化学分野、金属分野、機械分野、建設分野(土木、建築)、通信分野から集計している。

なおUhlig方式では初期コストが中心に積算されるのに対して、Hoar方式ではメンテナンス費も積算対象として大きく影響される。

腐食コスト4兆3,000億円(2015年)
変わらず塗装が約6割

Uhlig方式による腐食コストでは、2015年の総額は4兆3,000億円になり、経済状況で見るとGNI(国民総所得)の0.78%であった。この総額は1997年調査の約3兆9,000億円と比べて1.10倍、1974年調査の約2兆3,000億円と比べて1.88倍となった。

内訳は表面塗装が58%と最も多く、次いで表面処理27%、耐食材料8%の順であったが、この順番と割合は3回の調査で大きな差は見られなかった。

3回の調査時期の経済状況から考えて、成長期であった第1回と異なり、安定期に入った第2回と第3回ではGNIも大きな違いがないことから、「1997年及び2015年の調査結果は、安定期での直接的な腐食対策費及びその割合を示していると言える。また、腐食対策費の対GNI比は0.7~0.8%となる」(腐食コスト調査委員長・運営委員会の篠原正委員長)。

ただし、腐食コストに変化が見られないからといってこの20年間で腐食対策の実態も変化していないわけではなく、「同じ額でより耐食性の高いもののを入手、あるいは材料や装置の長寿命化が図られている」(篠原氏)として腐食コストパフォーマンスが向上しているとの見方を示した。

塗装分野は2兆4,900億円
建築、自動車、船舶がトップ3

2015年の塗装に関する腐食コスト、つまり塗装(報告書では表面塗装と表記)による腐食対策費は年間2兆4,900億円と算出された。

用途別に算出しており、用途区分は建築、建築資材、構造物、海運(船舶)、道路車両、道路車両(補修)、電気機械、機械、金属製品、木工製品、家庭用品、路面標示、その他となっている。

算出式は塗装腐食対策費=(表面塗装費+塗料費)×防食割合。表面塗装費とは下地処理を含む塗装作業費のこと。また、塗装の目的には防錆防食と美装があるため、防食割合を推定し乗じる。防食割合は海運(船舶)が100%、構造物や道路車両、金属製品などが70%、建築や建築資材、木工製品が50%としている。表面塗装費は海運が塗料費の10倍、その他は5倍としている。

用途別でみると、海運が最も多く5,295億円、次いで建築4,848億円、道路車両4,286億円の順番で、3回の調査で順位は変わるもののトップ3がこの3分野なのに変化はなかった。

今後の課題について、Uhlig法調査分科会(塗装)の主査を務めた田邉弘往氏(大日本塗料)は「グローバル化時代の国内、海外生産量と腐食コスト調査の在り方の検討が必要。また、塗装対象材料が多様化する中、金属の腐食から材料の腐食劣化へ懸念を取り込んだ調査が必要ではないか」との見方を示した。

異なる経済状況での調査は世界初

Hoar方式の腐食対策費総額は約6兆5,000億円でGNIの1.25%であり、この総額は前回調査(1997年の5兆3,000億円)の1.2倍程度であった。

分野別では、機械分野が最も多く、次いで化学分野、建設分野となり、これらはいずれも20%以上を占めていた。エネルギー分野は12%、運輸分野は9%であった。

篠原氏は「2015年における日本の腐食コスト調査を行い1974年及び1997年の結果と比較した。成長期(1974年)、変換期(1997年)、成熟期(2015年)という3つの経済状況での調査は世界初」と述べるとともに「アジアなどの新興国への重要な情報や技術供与に寄与する」と述べた。



講演会の様子(東京会場)
講演会の様子(東京会場)
篠原正運営委員長
篠原正運営委員長

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