自動車板金塗装市場は、板金塗装工場(BP)と損保会社の関係是正をはじめ市場健全化に向けた気運を高めている。特にBP工場と損保会社においては、商習慣から来る収益格差を明るみにし、日車協連は各損保会社に対し、指数対応単価の値上げを求める方針を固めた。経営基盤の強化に向けて、BPの主体的な行動を不可避となる中、サプライヤーも経営支援にフォーカスしたコンサルサービスの転換に感度を高めている。
「我々は、ある意味洗脳されていたのかもしれない」と話すのはあるBP経営者。工賃、補修費を算出するための指数対応単価や作業指数を慣習として無自覚に使っていたことがBP業全体が弱体化した要因の1つと指摘する。
保険で事故車を補修する保険修理は、消費者の便益に寄与する有効なサービスながら、補修を担うBP工場にとっては、入庫誘導や商慣習を背景に低収益を強いられていた実態が浮かび上がる。昨年のビッグモーターの事件では、損保会社と特定企業との癒着関係を明るみにしたが、その後もディーラーの不正請求に関するニュースが相次いだ。あえて弁護的な見方をすれば、それだけBP事業そのものがコンプライアンスが機能不全に陥るほど苦境に置かれていたとの見方もできる。
更に、コロナ禍が追い討ちをかけ、エネルギー費や資材が一気に高騰。このままでは存亡の危機に関わるとして収益改善に対する意識が高まってきた。
とはいえ、実態はまだまだ厳しい。昨年、政府方針の後押しを受け大手損保各社が指数対応単価の改定を実施したが、エネルギー費及び資材の高騰を補い切れるものにはなっていない。今後、日車協連も工賃値上げに向け団体交渉に臨むが、工賃アップのみを収益改善の解決策に捉えているわけではないようだ。
今回、別の記事にてイタリア・システムデータ社の作業指数「WINCAR指数」の国内展開を始動したWINCAR ASIAの事例を取り上げた。まずは輸入車を対象にした新指数の活用を進めるが、同社が目指すのはレバレートと作業指数で見積り額を策定する商文化の醸成。共同代表の伊倉大介氏は「個々のBPがレバレートを算出し、値付けをしなければ、本当の意味で経営基盤を強化することはできない」と話す。
WINCARが保有する車種ごとにまとめられた作業マニュアル書や電子回路図など、BP工場として保有するべき情報量も国内と大きな違い。海外システムの活用から市場の健全化を図る狙いだ。
サプライヤーは販売から支援へ
一方、塗料需要は、コロナ禍も他分野と比べて底堅さを見せていたが、ここに来て弱含みの状況が目立つ。価格転嫁による金額増が実態の把握を難しくしている側面もあるようだ。
また今春に入りメーカー各社による製品価格及び運賃値上げが相次いでいる。オートサプライヤー(販売店)は価格転嫁でユーザーの理解を求める意向だが、製品以上に警戒を強めるのが運賃の値上げ。あるオートサプライヤーは「今後も継続的な運賃値上げが予想される中、金額が小さい運賃を値上げごとに製品に転嫁するのは難しい」との考えから運賃を別建てにする方針を固めた。需要量が伸びない中での事業経費の高騰は、①価格転嫁②高付加価値製品の拡販③コスト削減の3施策に拍車をかけている。
そこでメーカー、オートサプライヤーともに注力するのが、提案力の強化。塗料、設備を含めた高付加価値品のユーザーメリットを"見える化"する営業体制の構築を突破口に見据える。「必要な材料を供給し続けるだけでは生き残れない」と話すオートサプライヤートップ。「販売」から「経営支援」へビジネスの感度を変えつつある。
オートサプライヤーの中には、これまで顧客の経営課題に介入した提案活動に躊躇する声も聞かれたが、収益改善に本気度を高めるBPのマインドが許容度を高め、オートサプライヤーに対するニーズに変化を与えている。
水性化も依然としてコストや作業性に対する抵抗感が根強く残るが、労働環境改善や法令遵守に寄与し、コストもBP側の主体的な値付けで吸収できることも分かってきた。「ユーザーが良くならない限り、塗料業界が良くなることはない」とは以前から言われる普遍的価値。今回長らく続いた商慣習の弊害が炙り出され、ユーザーが奮起している状況を千載一遇のチャンスに捉えたい。
(ペイント&コーティングジャーナル自動車補修用塗料・塗装特集2024春より)