新指数を移入、料金問題に風穴開ける

WINCAR ASIA(ウィンカーアジア)が昨年12月に設立、7月頃をめどにイタリア・システムデータ社が提供する車体整備業業務システム「WINCAR」のサブスクリプションサービスを開始する。WINCARは、EUの自動車車体整備業向けに見積もりソフトなどの業務管理システムを複数持つサービスブランドで、独自の作業指数(以下WINCAR指数)を持つことでも知られる。日本参入を受け、輸入車を中心にWINCAR指数の活用拡大が想定される。

 


WINCARは、自動車車体整備業向けに見積書作成、作業情報閲覧、業務管理システムを提供するサービスの総称。現在、EUにまたがる2万社以上のBP工場が活用し、車体整備・補修に欠かせない業務支援システムとしての認知を得ている。技術情報サービスや車両寸法サービス、電子回路図など豊富なデータ量を生かしたソフト開発が強みだ。

中でも"WINCAR指数"と呼ばれる作業指数は、システムデータ社が自前の研修施設で作成した独自指数。車体整備組合及び保険会社双方の合意を得た指数として信頼性を担保している。

これに目をつけたのが、伊倉鈑金塗装工業(東京都目黒区)とBP工場の経営支援を行うアドガレージ2社の代表を務める伊倉大介氏。昨年6月にシステムデータ社を訪ね、CEOのSTEFANO SILLA氏と日本展開について協議を開始。伊倉氏を含む5名の業界関係者が出資し、WINCAR ASIA(本社・東京都目黒区)の設立に至った。代表はSILLA氏と伊倉氏の共同代表体制とした。

WINCARの国内展開に対し、システムデータ社が求めたのは、「WINACRを正しく使える人を増やしてほしい」との要望。当初、日本側はWINCAR指数を活用した見積もりソフトなどの普及を想定していたが、システムデータ社側の要望に応える形でユーザーコミニュティスペースを設定。「我々経営陣がWINCARをしっかり学び、日本、個々の利用者に適した形で価値を提供していきたい」(伊倉氏)と利用者との情報共有を付加価値とするビジネスモデルを構築した。現在は試験運用中だが、既に30名がコミュニティに参画し、WINCARの利用法について検証を行っている。

料金プランは、年間契約を基本にすべてのサービスが利用できるフリープラン(月額5万円)と、利用サービスを限定したミニマムプラン(月額4万円)の2種類を用意。初期費用はなし。初回月を無料解約期間とし、継続利用の際は翌月に2カ月分を請求する。現在、サービスの日本語訳に着手しており、作業を終える7月頃をめどに事業展開を本格化する考えだ。

WINCAR指数がもたらす影響とは

輸入車の作業指数は、自研センターやミッチェルなどがあるが、ミッチェルは数年前に国内向けサービスを停止。作業指数がない車種については、同種タイプの国産車を参考にするのが一般的だが、BP側にとっては十分ではないとの見方がある。

自らBP工場を経営する伊倉氏も「当社は長くミッチェルを利用しており、サービスが停止した後も古いミッチェル指数を使っているが、新型車が増えれば対応が難しくなる」と話す。どの指数を使うかの判断は工場側に主導権があるが、損保会社と交渉する上で公平性、客観性を担保した指数の採用が不可欠となっている。

そこで新たな指数として期待されるのがWINCAR指数。同社としては、EU域内を走行する乗用車、大型車、二輪車の作業指数を網羅するWINCAR指数を第3の"ものさし"として利用価値を見出した。更に興味深いのは、海外仕様の国産車もWINCAR指数を有している点だ。

当面、同社は輸入車を中心としたWINCAR指数の導入を検証していく方針だが、「同種タイプであれば、国産車の適用もできなくはない」と今後の展開に可能性を持たせている。
ただ作業見積もりにWINCAR指数を活用することだけがBP工場の収益改善に直結するわけではない。「我々にとって重要なのは、お客様や取引先様にきちんと根拠に基づいた値付けの説明ができるかどうか。単なる安い高いではなく、自社レバレートとWINCAR指数で価格を決める文化を醸成したいと考えている」と話す。

一方、伊倉氏がシステムデータ社の訪問時に驚きを受けた1つに圧倒的に異なるデータ量がある。
「WINCARには、整備マニュアル、ボディ寸法データ、電子回路図が車種ごとにデータベース化されており、当然海外仕様の国産車のデータもある。スカイラインのリアクター交換のマニュアルがプラモデルを作るがごとく説明されていたのはびっくりした」とその衝撃ぶりを語る。更にWINCARは、イタリア交通省のデータベースと連携しており、入庫車のナンバー写真から整備履歴が確認できるなど、情報インフラの違いにカルチャーショックを受けたようだ。

「いかに我々BPが情報の遮断された中で補修作業を行っていたかを痛感することができた。情報の不均一性を是正しない限り、適正な価格を算出することはできない」と伊倉氏。今後、コミュニティを通じて、日本市場に応じたWINCARの活用を検証していく意向を示す。

今年3月に開催された「国際アフターマーケットEXPO2024」で行った「イタリアからみる車体整備業の料金問題」と題した講演には、損保会社、システム会社など90名が聴講に参加。その後200名が名刺交換を求め、ブースに訪れたという。料金問題を是正する黒船となるか。今後の動向に注目が集まる。
(ペイント&コーティングジャーナル自動車補修用塗料・塗装特集2024春より)



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