工場レポート 新工場、大型筐体の量産体制を確立

半導体製造装置や医療機器の筐体を製造する山形エム・シー(本社・東京都町田市、塗装事業部・山形県東田川郡、代表取締役社長・佐々木雅人氏)は2018年に32億円をかけて塗装工場を新設し生産能力拡大を図った。自動前処理ラインに加えて、大型製品を量産できるラインを含む4つの塗装ラインを完備し、溶剤塗装、粉体塗装、水性塗装の複数の塗装仕様に対応した塗装設備を有する。半導体製造装置の需要増が続く中、人材育成を進めるとともに更なる事業拡大を目指す。


山形エム・シーは精密板金加工事業、金属焼付塗装事業、太陽光発電事業、不動産賃貸事業を展開している。従業員数は134名。

精密板金加工では、主力の半導体製造装置や医療機器、電子顕微鏡などの筐体を製造しており、取引先は国内の大手メーカーが多くを占める。受注活動などの営業の役割はグループ会社の宏和工業が担っている。

これまではグループ会社の月山塗装(山形県東田川郡)で塗装を行っていたが、塗装設備の老朽化に伴って新たに土地を取得し新工場を建設、2018年7月から稼働をスタートさせている。

新工場は敷地面積30,042㎡で、塗装工場の建築面積は1階が4,540㎡、2階は事務所で378㎡となっている。設備としては、リン酸亜鉛皮膜処理の前処理ラインと4つの塗装ラインを設置している。塗装ラインは量産に対応したトロリーコンベアラインが2ラインと、大型製品に対応した定置型の塗装ラインが2ラインある。

ワークサイズとしては、トロリーラインは長さ1,500mmまで対応が可能で、定置塗装ブースでは幅2,500mm×奥行2,800mm×高さ2,800mmまで対応でき、大型品を量産できる体制が強みとなっている。現在の生産量は月産12,000点となっているが、工場設備の生産能力を考えると余力はあるとして今後の生産増を見据える。

大型対応の自動前処理装置

前処理は自動前処理ラインを導入。キャリア搬送装置やクーリング自動水切乾燥炉などにより自動化を達成した。「機械化したことで人的労力を削減した上で品質確保が可能となった。主力の1つである半導体製造装置の大型筐体でも作業時間は短時間で済ませることができる」(佐々木社長)。

前処理はリン酸亜鉛皮膜処理を採用しており、工程は湯洗→脱脂→第1水洗→第2水洗→表面調整→化成処理→第3水洗→第4水洗→純水ミスト→エアーブロー→水切り乾燥。なお、素材がステンレスやアルミの場合は脱脂のみで済ませる製品もある。

前処理後はマスキングやパテ付けなどの下処理を行った上で塗装工程へと移る。

2つのコンベアラインで生産性向上

塗装設備は2つのトロリーコンベアラインを含む計4ラインを設置。旧工場ではトロリーコンベアラインが1ラインだったが、新工場では2ラインに拡充し塗装系による棲み分けが可能となった。結果として、小型及び中型サイズの量産品の生産能力は大きく向上している。

AとBの2つのトロリーコンベアラインは設計が同じであり(全長270m)、乾燥炉のスペックが異なる。

Aラインでは主力の1つである医療機器製品をメインに塗料系は2液ウレタン塗料を主流としており、Bラインでは粉体塗装、水性塗装、メラミン塗装の多様な塗装を行っている。塗装系はそれぞれ顧客の指定による。

塗装ブースはパーカーエンジニアリング製で、粉体塗装機はパーカーエンジニアリング製及びグラコ製を使用。静電塗装機はランズバーグ製を使用している。

塗装ブースはAライン、Bラインともに4ブース(計8ブース)あり、下塗り、中塗り、上塗り×2となっている。すべてハンドガンによる塗装で、基本的には各ブース1名、被塗物の形状や膜厚によっては2名で塗装を行う。製品のサイズや形状が多種多様なため、レシプロケータやロボット塗装は適さないと判断した。

乾燥炉は間接熱風式を使用し、2液ウレタン塗装を行うAラインでは100℃×30~35minの条件で焼き付ける。一方、Bラインは塗料によって焼付条件が異なり、メラミン塗装は130~160℃、水性塗装は150℃、粉体塗装は190℃の設定としている。

大型対応の粉体塗装設備

自動コンベア搬送ではなく定置型の塗装設備は2ライン(A、B)あり、Aラインは半導体製造装置をメインとしており、粉体塗装に特化した塗装設備となっている。ここでは2名がハンドガンによる粉体塗装を行っており、半導体製造装置の筐体はサイズが大きく形状も複雑なため、塗装時間は100分ほどかけている。

使用する色数は3色で白がほとんどを占める。粉体塗料はナトコ製のエポキシ/ポリエステル樹脂系を使用しており、屋内で使用される製品のため耐候性よりも防錆や耐久性が求められる。

一方、Bラインはもっとも新しい塗装ラインで、粉体塗装と溶剤塗装の両方に対応した塗装設備。Bラインは被塗物を吊ることができ手動で搬送する設計となっている。

粉体塗装の場合、基本的には粉体塗装の1回仕上げが多いが、製品によっては粉体塗装+溶剤塗装の仕様もある。粉体塗装で50μm程度の膜厚を確保してから、その上に指定色で仕上げる仕様となる。

また、塗装後にロゴマークや印などを付けるためにシルク印刷することもあり、工場内にはシルク印刷室及び乾燥炉を新設した。乾燥炉の対応サイズは幅2,300mm×奥行2,300mm×高さ2,300mm。塗料商社の富士化学塗料・山形営業所が工事を請け負った。

半導体需要増を追い風に

新工場を新設したことで生産能力は大幅に向上したものの、移転後すぐに生産増とはいかなかったと言う。

佐々木社長は「設備投資しても、旧工場の従業員が全員移ったわけではなく、新工場で新たに20人を採用した。人材育成に苦労してようやく今になって生産性が上がってきている。工場の能力としては、人員能力がもっと強化できれば、更に増産できる」との見方を示す。

現在、塗装事業部では41名が働いており、新工場の稼働にあたって採用した人材は工業塗装経験者は少なく、未経験がほとんど。多くの作業で自動化や省人化を進めてはいるものの、塗装工程を含めて人材のスキルアップは必須となっている。今後も継続して人材育成には注力していく方針だ。

同社の主力の1つである半導体製造装置の需要動向として、2020年初めはコロナ禍の影響はそれほどなかったものの、その後、医療機器は落ち込みが見られたという。

その中で、2021年頃から「半導体製造装置の引き合いは非常に多い。かなりハイペースの増産状態」(佐々木社長)にある。国内外の需要増により、半導体メーカーはどこも同様の状況にあるという。更には新しく半導体分野を始める企業も出ており、同社にとっても新規顧客となる見込みもある。

そうした需要増の中で、同社としては人材育成とともに工場の体制強化を進めていく方針。

新工場の稼働後も旧工場は稼働を続けているが、老朽化した設備を考えると長期的な稼働は難しいとの見方。「生産性の向上と設備投資を両輪として、新工場への完全統合を目指していく」(佐々木社長)として、市場動向を注視しながら方向性を探る。

現在、受注の多くはグループ内での板金・塗装一貫生産だが、今後は自社での塗装受注も増やしていきたい考えがあり、工場設備に適した新たな市場獲得を目指している。(本紙・桜井)



新工場外観
新工場外観
㊧塗装課長・飯井大樹氏㊨社長・佐々木雅人氏
㊧塗装課長・飯井大樹氏㊨社長・佐々木雅人氏
半導体製造装置の筐体
半導体製造装置の筐体
4つの塗装ラインを完備
4つの塗装ラインを完備
自動前処理ライン
自動前処理ライン
トロリーコンベアラインが2ライン並ぶ
トロリーコンベアラインが2ライン並ぶ
トロリーコンベアラインが2ライン並ぶ
トロリーコンベアラインが2ライン並ぶ
ハンドガンにより塗装を行う
ハンドガンにより塗装を行う
第四ブースから乾燥炉に移る
第四ブースから乾燥炉に移る
大型用定置塗装ライン
大型用定置塗装ライン
梱包作業
梱包作業

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