担い手不足が市場構造を変える
需要創出へ、サービス開発で対応 

自補修用塗料マーケットは、2024年度も不安定な市況が続く。全国の交通事故件数は、コロナ禍前の年間40万件から令和2年以降は30万件台と大きく減少した。原材料高騰と需要減少に見舞われる中、業界を取り巻く気運は製品値上げと高付加価値展開。後継者不在や担い手不足からBP工場の稼働力低下も顕在化し始めており、市場の構造変化に備えた対応が必要になってきた。


日塗工の業種別動向(金額)を見ると道路車両・補修7~9月の第2四半期は前年比3.3ポイント上昇したものの、第1四半期は5.3ポイントのマイナス。建築用、工業用に比べて許容度の高さを示す製品値上げもが需要減によって目論み通りの売上増に至っていない現状がある。

製販装それぞれの観点で見ると、製品値上げを収益是正の機会つなげた塗料販売店や塗装ユーザーと対照的に数量に依存するメーカーの苦戦が目立つ。原材料の高騰は現在も続き、今秋、一部のメーカーを除いて値上げに踏み切った。市況が不透明な中、製品値上げと高付加価値製品の押し上げを不可避としている。

業種による差異を鮮明にしつつ、コロナ禍が収束し、多少なりとも自動車生産が回復した状況下で需要が好転しない要因はなぜか。先進安全自動車の普及によるものか、物価高騰が需要の減少に拍車をかけたのか。市場構造の変化を示唆している。

しかし、局地的に見るとポジティブな様相も見られる。今特集の取材で自補修を主力とする多くの塗料販売店が「二極化がより鮮明になっている」と口を揃えた。今号5面で取り上げた岐阜のボディショップ和も輸入車特化の戦略で需要を伸ばし続ける1社。「需要の減少以上に板金塗装工場の減少が早いと見ている」(同社取締役・松本悟氏)の言葉が説得力を帯びる。

BP工場の減少は、残存する工場の経営改善に寄与しつつ、市場全体では稼働力低下を招いているとの見方。加えて、人材の安定雇用のために講じる残業是正や休日数の拡充などの働き方改革が稼働力低下に拍車をかけたと推察する。

既にBP工場においては、納車までの期間が長期化している現状もあり、工場の減少、担い手不足は整備・補修インフラの維持に不安要素を残す。

当然、省力化や省人化システムの構築が期待されるが、工業、建築と異なり「板金塗装の自動化はありえない」というのが自補修関係者の共通認識。メーカーの製品開発が作業時間の短縮、工程短縮にベクトルを集中させているのもそのため。技能者に依存する現行システムの中で、生産性の向上が最重要課題となっている。労安法改正を契機に気運を高める水性シフトも担い手確保のための重要施策と位置づけるが、導入ハードルの低い環境対応と作業効率向上を両立した溶剤系製品の開発にメーカー各社は注力する。

板金塗装サービスの多様化へ

工場減少、担い手不足は、今後も続くと見られ、当初原材料市況から派生した塗料、資材価格の高騰は、エネルギー費、人件費、物流費由来にシフトしつつある。事業者にとっては、業態問わず事業経費の高騰に備えた収益改善を急務としている。

幸い、事故車の修復というインフラ的性格を背景に自補修分野の製品転嫁はメーカーから販売店、販売店からユーザーへと堅調さも見える。ある塗料販売店トップは「コロナ禍以前と比べ塗料類は1.5倍、副資材は2倍近く上がった」と話す。

加えて、損保各社による対応指数単価(工賃)の引き上げも、製品値上げを受け入れやすい状況にしている。今年5月には、日本自動車車体整備協同組合連合会が損保大手4社に対し、指数対応単価の引き上げを要請。修理・補修インフラを支える感度も値上げを後押ししている。

しかし、板金補修料金の高騰に消費者(カーオーナー)がどう反応するか。需要減少に拍車をかける可能性が拭えない。「必然で行われる板金補修は、価格上昇が需要に影響を及ぼすことはないと考えている」(塗料メーカー担当者)との見方もあるが、損保修理はともかく自己負担修理においては価格的要求が強まることが予想される。

こうした動きを見越し、一部の企業で軽補修事業やフィルム事業をサービスに加える動きが出てきた。材料、工賃の上昇は需要減少をもたらし、入庫増など数的拡大に講じなければ、立ち行かなくなるとの危機感がある。

効率化や迅速性からパーツ補修が主流にある中、板金塗装は部品に依存しない工法としての優位性がある。担い手不足の中で、処理に時間を要し、技能を要する板金塗装にネガティブな意見が多く占めるが、品質とコストを細分化したサービス展開が消費者ニーズに合致する可能性がある。

また今後、塗装サービスに脅威を与える存在として台頭するのがプロテクションフィルム。国内では、施工価格100万円~200万円と主に高級車を対象としたマーケットだが、世界最大の需要量を誇る中国では施工店増加により30万円台までに下がっているという。

その日本でプロテクションフィルムの汎用市場化に挑むのが、NKD JAPAN。直接の出資関係はないが材料開発から施工に至る一貫サービスを保有する中国・NKDの日本法人として市場化に着手している。施工人材は、インドネシアから技能実習生を招き、都内に新設する研修センターで養成。サービスを希望するBPなどに派遣する考えだ。

これまで施工側の「塗装以上に難しく、リスクが高い」点も普及のハードルとなっているが、汎用化による消費者メリットは少なくない。

物価高騰下において、消費者はあらゆるサービスの費用対価値の再評価を下すことになる。事故車依存からの脱却を図るため、板金塗装サービスも消費者の選択肢に応えるサービス構築が求められている。


※ペイント&コーティングジャーナル:2024年11月6日付「自動車補修用塗料・塗装特集(秋)より」



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