粉体塗装拡大の道筋とは
汎用性と決定者へのアプローチ

粉体塗装マーケットの拡大には汎用性への訴求が必要と言える。大量生産向け分野で採用を増やしてきたものの、粉体塗料の特性を考えるとその伸張具合に物足りなさが感じられている。打開するためには汎用的な広がりに向けたサプライチェーンが必要であり、一部の塗料メーカーはその戦略に注力する。同時に"塗装"側が設計図面に入るなど発注者へアプローチする体制づくりが重要だ。


今年の粉体塗料需要は横ばい傾向が続いているが、年度末に向けては「昨年を上回っていくのではないか」と期待の声が多い。経済産業省統計の販売数量を見ると、昨年を下回る月が多いものの、5月と7月では昨年出荷を大きく上回り横ばいに落ち着きそうだ。

8月以降は堅調な塗料メーカーが多い。特に粉体塗料市場にとっては最も大きい需要分野である鋼製家具向けで増加傾向が出始めた。「鋼製家具メーカーによると来年から2019年までは生産計画でピークを迎えると聞いている」(塗料メーカー)。

東京都心は高層ビルの建設ラッシュにありオフィス家具の生産が増えている。関連して配電盤や照明器具向けでも粉体塗料需要が期待できる。

その他分野では工作機械や建設機械の輸出向けで回復基調が見られ、塗料需要も連動した伸びが見られている。

粉体塗料はこうした産業のメーカー内製ラインで使用される数量の割合が多く、大手需要家が溶剤塗装から粉体塗装に切り替えるにつれて粉体塗料需要が増加してきた経緯がある。

溶剤塗装と異なり粉体塗装は1コートで60~80μm程度の厚膜が確保でき、使用した粉体塗料は回収再利用が可能なため、その特性が同系色で大量生産する用途にマッチし需要が拡大してきた。

しかし、大手需要家の粉体塗装導入は一巡した感があり、マーケット拡大を描くには新たな道筋を明確にする段階に来ている。その1つは特定産業、特定用途ではなく汎用的な広がりだ。

メラミンの代替の可能性

粉体塗装は大量生産向けに最適な一方で、少量多品種には適さないという側面もある。製造工程が多いなどの理由から調色や納期、ロット対応に小回りが効かないためだ。そのため汎用性が低いとの見方が多かった。

小ロット多品種向けに、1ケースから調色対応する事業展開で成長したのが三王だ。このほど、意匠性タイプ「コナールトーン」の展開を本格スタートし製品拡充を図ると同時に生産の効率化を進めるため年末にかけて設備投資を予定、拡充路線を指向する。

ここにきて、他の塗料メーカーの中でも汎用的な戦略を強める動きが目立ってきた。久保孝ペイントは常備202色の粉体カラーカードでプライマーや模様、ジンクリッチなど機能性タイプを追加し、同じく常備色カラーカードで1ケースから販売するロックペイントは色数を20色に増やしている。

シェアトップの日本ペイント・インダストリアルコーティングスでも汎用戦略を強化。粉体塗料の混合調色により1kgから発注可能な「ビリューシア アルティーカラー」に耐候性向上タイプをラインアップし、溶剤塗料並の超小口・調色対応で需要喚起を狙う。

汎用的な体制が確立しその流れができれば溶剤塗料のいわゆるメラミン塗料からの切り替えも期待できる。ボリュームは膨大だ。

ただ、普及させるには供給システム拡充と並行して、粉体塗料・塗装の特性の認知度を高めることが重要であり、特に塗装仕様の決定権を持つ施主・設計へのアプローチだ。

塗装現場からは「当初の図面には粉体塗装となっていたが、いざ我々のところで塗装する段階で正式な色決めとなると、納期の問題でそこから調色は厳しいとなり結局は溶剤に切り替わる」「図面では溶剤塗装となっているが、性能やコストを考えると粉体塗装で1回仕上げの方が最適との提案をしても、顧客(加工業者)がその先(発注者)に提案する手間を嫌がり変更できない」など、もどかしさを感じている声は少なくない。

つまりは決定権を持つ施主や設計者に粉体塗装の特性を知ってもらい、塗装までの道筋を構築する必要がある。一部では塗料メーカーと塗装専業者の連携した動きも見られ、塗料メーカー、塗装専業者、販売店の単独ではなく連動した仕組みづくりが有効だ。

環境配慮や厚膜ゆえの優れた塗膜性能など、社会的に粉体塗装の関心度は高まっているにも関わらず、"粉体塗装"をサプライする側がその機会を取りこぼすのは大きな損失だ。

粉体塗料販売数量



粉体塗装の様子
粉体塗装の様子

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