体験ルポ 自宅の内装を塗り替える
塗ってみて分かったこと

今年5月、ゴールデンウィークを使って、自宅内装の壁紙を塗り替えた。塗装体験会や塗装ボランティアなど、取材の折に感じる参加者の楽しそうな姿を見ながら、なぜ住宅内装に塗装が普及しないのか。少しでもヒントをつかみたいと、実践の機会を探っていた。しかし、実際に塗り替えを決意し、行動に移すまでに3年がかかった。躊躇する思いや面倒臭さ、家人への説得など、塗り替えに至る経緯から完成までの体験を綴った。(近藤)


まえがき

会社事務所の壁紙半分を塗り替えたのは2014年1月。業界記者として14年が経っていたが、塗装といえば小学生の時に夏休みの宿題で作ったブックスタンドと塗料メーカーの担当者の好意で塗った木製のティッシュケースくらい。紙面で再三、内装塗り替えにまつわるニュースを扱いながら、さすがに塗装経験がないのは、記者といっても手落ちの感もあり、「みんなで会社の壁を塗ってみない?」と発案したのがきっかけ。得てしてこれが私の初めての塗装体験となった。

しかし、たかだか1、2日、壁紙にローラーを転がしたところで、「塗装したことがある」と言えるほどの経験になったかと言えばノー。ズブの素人の私にできることは何もなく、材料の購入、色選び、段取りは、前職で現場経験を持つ主幹・Iにすべて任せきり。作業当日も養生、塗料の攪拌から入り隅の細かな作業、手直しもすべて泉に託し、私は渡された塗料バケットとローラーを持って、壁に向かい合ったに過ぎない。それでも赤、黄、紺の3色を使い分け仕上がった壁を見ると、「オシャレになった」と満足感と達成感があった。

それ以来、もっと塗装が上手になりたい、経験を重ねたいと、自宅で塗装の機会を探ってみた。しかし当時は賃貸マンション暮らし。一度、管理人にそれとなく塗装の是非を尋ねてみたが「壁紙が剥がしにくくなるから絶対やめてね」とにべもなく断られた。

第1章 壁を塗るにも3年

再び塗装するチャンスが訪れたのは、会社の塗り替えから丸1年経った2015年4月。自宅を引っ越すことにした。

マンションだが今度は持ち家のため、うるさく言う大家も管理人もいない。まして家具もカーテンもない状態は、塗装するには絶好の環境。そして私は妻に意気揚々と「壁を塗ろうよ」と持ちかけた。

すると妻から返ってきたのは「どうして綺麗な壁紙にわざわざ塗るのよ。絶対に嫌!」との返事。張られたばかりの壁紙は、清々しいくらいに白い。新しい壁紙をわざわざ塗る必要はないとの反論に屈しかけた。

しかし、そんなことでせっかく芽生えた塗装の灯を消してはいけない。こちらも塗料普及の一端を担っている身だ。妻に「汚いから塗るという発想が違うねん。塗装の質感を知ってるか?壁紙にはない、何とも言えない風合いが得られるねん」と言葉を並べ立て塗装仕上げの良さを力説した。

しかし、再び妻の「無理」という一言であえなく撃沈。共通の友人を通じて、妻の背中を押してもらおうと試みるが、友人達も「白い壁紙で問題ない」「塗装して汚れるのが嫌」と妻側に立つ意見が大多数。「いいねぇ。ぜひうちでもやって」と興味を持ってくれたのは、壁紙がぼろぼろに剥がれている妻の実家だけだった。

インテリアペイントは、家人の了解なしにできないことを知る。まして普段家にいない私がインテリアに口を出せる権限はない。それでも記者感覚としてDIYペイントの普及に可能性を感じていただけに、実践にすら移せない現実が我ながら不思議だった。

そうして月日が経過し、 私のモチベーションも次第に落ちていく。妻を説得する労力と面倒臭さが入り混じり、完全に私の塗装の灯は消え、3年が経過した。

しかし、チャンスは突然訪れた。今年の3月、妻とゴールデンウィークの過ごし方を相談した結果、今回は互いの実家がある大阪には帰らず、東京の自宅でゆっくりすることを決めた。

これまで長期休暇のほとんどを帰省に充てていた我が家にとって、3日以上の連休に自宅にいることはほぼない。「塗装ができる」。再び私のやる気スイッチが入った。

そして恐る恐る妻に投げかけてみる。「壁を塗ろうよ」。すると妻「失敗しない?」。おやっ、流れがいつもと違う。そして私「しない」。次に妻「ムラにならへん?」。私「......ならへん」、妻「うまくいくん?」。ここで失敗の可能性を伝える必要はない。「いく」と私は断言した。こうしてついに我が家の内装塗り替えが実行に移されることになった。

妻の心境に何の変化があったのかは分からないが、おそらくテレビやSNSなどでインテリアやDIYを扱った情報発信が増えていたことと無縁ではないと思う。また入居して3年が経ち、壁紙の継ぎ目が浮き始めていたことも妻の気分を後押しした。

第2章 道具で挫折しかける

いよいよ自宅のインテリアを塗り替える。そう思った途端、妻と2人で作業してもつまらないと思い、それぞれの友人に声をかけて、イベントスタイルにできないかと考えた。

このアイデアは何となく盛り上がるという確信があった。ペイント体験会や塗装ボランティアの取材で、塗装は参加者にとって楽しいイベントツールになっているという光景を多く見てきたからだ。まして実際の家の壁を塗るという経験はめったにないはず。体験してもらうことで、「自分の家も塗装をしたい」となってくれるかどうか、実験してみたい気持ちもあった。

そして、2日間の日程で午前から夕方まで出入り自由のスタイルにしたところ、結果的に老若男女25人が我が家に訪れた。

日程も決まり、これでもう逃げられない。あとは道具を揃えるだけだ。しかし、この道具を揃える作業が非常に難儀した。

塗料は、妻と塗料メーカーのショールームに出向き、実際の色見本板で色を決め、予定している面積に応じた量を買うことができたが、道具、養生品については何がどれくらい必要なのかさっぱり分からない。もちろんローラー、刷毛、バケット、内容器、ネット、マスキングテープ、マスカーが必要なことくらいは想像できたが、あとでローラーハンドルが足りなかったことを思い出すように、塗装に関わる資材と種類の多さに、挫折しかけた。

頼みのインターネットを見ても、値段やサイズは表示されているが、それがどの用途に適し、どれくらいの数が必要なのかという情報はほとんどなかった。一番困ったのは価格の違い。同じ品目、商品でもネットショップによってそれなりの価格差があり、価格の違いが何によるものか、施工性や性能面で価格差の違いを掲載した情報を得ることができなかった。

このままでは迷宮入りする。今回、いち消費者の立場で塗装を体験したいと考えていたため、業界の方の力を借りるのは自分自身でご法度にしていた。しかし、25人も来る異例のことだけに資材だけは業界の方の力を借ることにし、一式を販売してもらった。

第3章 いざ塗装へ

今回、塗装したのは、リビングの壁2面と廊下両側の壁の約20㎡。天井は塗装をせず、クロスを残すことにした。初日の朝から続々と友人たちが我が家を訪ねてきた。

まずは養生。マスキングテープで縁を取り、マスカーを貼っていく。私を含めて、全員が初心者。マスキングテープの上にマスカーを貼るのか、少しずらして貼るのか。だいたいは分かっていても詳しく知らないのが困る。

20180926-4-1.jpg 20180926-4-4.JPG

実は、塗装当日も禁じ手を使ってしまった。たくさんの友人が来ることになったため、主催者側の私があいまいな指示をして友人たちを困らせてはいけないと思い、個人的縁を頼って塗料メーカーの方に助けにきてもらった。

結果的には、来てもらわなければ散々な結果になっていた。指導を受け、要領が分かると特に女性は作業が早い。参加者同士で協力し合いながら、てきぱきと作業を進めていく。私が貼った場所は雑だと剥がされてしまうし、塗装が上手になりたいという当初の目的は潰え、すっかり私は塗料をバケットに注いだり、道具を渡すだけの係となってしまった。

20180926-4-2.JPG 20180926-4-3.JPG

塗装も最初に刷毛を壁につけるまでは緊張感があるものの、一度塗ってしまえば後は早い。ダメ込み刷毛で隅を拾った後はローラーでスイスイ。午後と2日目に来る友人たちもいたため、途中でペースを緩めたほど。養生時間や休憩時間も楽しい井戸端会議の場となり、終始和やかな雰囲気に包まれた。

ただ、見ていて興味深かったのは、自分が塗った場所がきちんと塗れているか、ムラがないかなど、驚くほど繊細であるということ。DIYとはいえ、汚したくない、綺麗に仕上げたいという意欲にあふれている。"日本品質"の根底を見た気がした。

2日目も至って順調。この日はメーカーの方の助っ人はなかったが、初日に経験した友人たちが教える側に回り、作業がスムーズに進められていく。私は変わらず道具を渡す係に終始した。

2回塗りを終え、乾燥を待っていると、どんどん色が濃くなり、締まっていくのが分かる。「良い色に仕上がったね」と充実感や達成感を共有できるのもペイントの魅力ということに気づいた。

20180926-4-6.JPG 20180926-4-5.JPG20180926-4-7.JPG

あとがき

自宅の塗装をイベントにした時点で私の関心は、塗装に上手になることから来てくれた友人たちがどんな感想を持ってくれるかに移った。

聞こえてきたのは、「臭いが全然しない」「思ったほどムラにならない」「おしゃれになった」といずれも好意的なものばかり。ただ25人来た中で、自分の家でもやってみたいと言ったのは2組。1組は「自分では無理だからプロにお願いしたい」という50代の女性。もう1組は「子ども部屋を塗りたい」という3人の子持ちの30代ファミリー。その他の多くは、「白い壁紙のままで良い」と正直な答えが返ってきた。

インテリアペイントのハードルは予想以上に高い。新築に住む方も古い家に長く住み続けている方も色を替えるのは躊躇するところがあるようだ。むしろ、「白」の強さを思い知らされた。

もう1つ見逃せなかったのが、塗装はそれなりの重労働であるということ。ファッショナブルなイメージで見えづらくなっているが、1日塗装すると、ちょっとしたハイキングくらいの疲れを感じる。ローラー作業や脚立の昇り降りの繰り返しは、それなりの運動量になっているはず。エクササイズと捉えれば前向きになれるが、女性にとってはかなり辛い作業であることも分かった。他の部屋などまだまだ塗りたいところがあったため私は妻に、「今度、ここを塗ってみようよ」と投げかけたが、「もういいやん。疲れた」とつれない返事。

最後にお金の話。安全のために脚立(約1万円)を購入したのは予想外の出費だったが、塗料代(4L、2L)約1万1,500円、道具・養生品約6000円の計2万7,500円。自宅にいただけだがゴールデンウィークらしいイベントになった。




HOMEインテリア / DIY体験ルポ 自宅の内装を塗り替える

ページの先頭へもどる