法人需要を取り込む、地方塗装店の挑戦

人口8万人強の岐阜県関市でゼネコン協力工事、工場倉庫、戸建て塗り替え、新築住宅工事を含めた建築の4事業を展開する三輪塗装(代表取締役・三輪雄彦氏)。昨期の売上高は過去最高となる9億円を突破し、地方塗装店として独自の事業モデルを確立する。中でも成長領域に位置づけるのが、工場・倉庫の改修を行う法人施工。独自の営業スキームを構築し、物件獲得につなげている。幅広い工事対応力が求められる法人施工の取り組みについて三輪氏に聞いた。



――法人施工は10年前にスタートしたということですが。
「元々はゼネコンの下請けをメインにしていた会社でしたが、父から引き継いだ後は戸建て塗り替えを中心に伸ばしてきました。法人施工はその後に始めました。私自身が野丁場の経験があったことが法人施工を始めるきっかけになりました」

――ゼネコン工事と法人施工は随分違うと思いますが。
「全然違いますね。同じ塗装でも営業方法から施工管理に至るすべてが異なります」

――なぜ法人に着目したのですか。
「リスクヘッジです。野丁場、戸建て塗り替えとも同じ建築塗装ではありますが、物件規模も件数、収益性も異なります。当時はゼネコン工事と戸建て塗り替えが支え合う形になっていましたが、地方ゆえにどちらもマーケットは小さいです。そこで法人施工を新たな柱にしたいと考えました」

――ただ、法人施工に注力するといってもそれぞれの企業にお抱えの工事会社があり、市場化が難しい印象があります。
「その通りです。法人施工に関わるといろいろな人が登場しますね」

――どういうことですか。
「会社の上層部の方にもそれぞれ工事会社との付き合いがあるため、こちらで話を進めている段階であっても横槍が入る場面が多々ありました。おそらく日頃の付き合いから義理を果たしたいなどの思惑があるのでしょう。地場企業に関わる人脈の深さを知れるのも法人施工ならではです」

――つながりの深さが法人需要の取り込みの難しさにつながっているということですね。どう打開していったのですか。
「1つは顧客の要望に『できない』と言わないこと。塗装以外の工事も多く依頼されるからです。もう1つは営業エリアを少し広めに設けました。また施工は、お客様の操業中での作業になるため、種々さまざまなルールに従わなければなりません。その中で施工会社として操業、業務の支障にならないよう休日作業も含めて、時間、段取りを工夫しながら作業を進める必要があります。ここが初めから塗装環境が整っている官公庁物件や戸建てと大きく違うところです。営業エリアは、地域を限定すると物件の母数が絞られ少なくなるため、戸建て塗り替えより広くしています」

――営業方法においては。
「基本は委託によるテレアポ、DMを活用しています。法人向けのWEBサイトやブログでの情報発信も当社を知って頂く上で不可欠ですが、ファーストコンタクトにはテレアポとDMの効果は大きいですね」

――ある意味アナログ的とも言えます。
「労力、コストはかかりますが、今のところ最も確度の高い集客方法です。どんな企業を対象にするかは工夫を凝らしていますが、重要なのは連絡してからのサポートです。迅速なフォロー、サポートがあってようやく話を聞いて頂ける段階になります」

――片手間にはできないですね。
「そうです。工事部長の従兄弟(三輪泰也氏)が専従で法人施工を取り仕切っていますが、会社として大きな落とし穴がありました」

――どういうことですか。
 「法人施工は売上こそ年間2億円前後と他部門に並ぶ柱に成長しましたが、休日出勤、昼夜問わず対応し続けてくれた従兄弟の頑張りに頼りすぎていました。言い換えれば、彼が倒れて不在になった際は、たちまち法人部門が成り立たなくなります。ここに会社としての大きな脆弱性がありました」

――昨年に大きく組織体制を変えたということですが。
「そうです。4部門を横串にし、どの部門であっても営業、施工管理ができる組織体制に刷新しました。これまでは私を含む幹部がそれぞれの部門を牽引してきましたが、同じやり方を若い社員に継承することはできません。当社の目指すところは、突出して忙しい人材をなくし、全社で休日を増やすことができる働き方改革と所得を平準化した組織体制にあると考えています」

――最後に法人施工に注力する背景には、不振を極める戸建て塗り替えの対策なのでしょうか。
「そうですね。昨年から戸建て塗り替えの低迷は凄まじいと耳にします。当社はなんとか微増で推移していますが、これからを考えると多店舗化や営業エリアを広げない限り、大きく伸ばすことは難しいと見ています。それだけ生活者の消費行動は大きく変化しています。だからといって当社に多店舗化や営業エリア拡充の構想は今のところありません。その意味で法人施工は地方塗装店として生き抜く不可欠な施策と捉えています」

――ありがとうございました。



三輪雄彦氏.jpg
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塗り床工事の様子(写真・三輪塗装).JPG
塗り床工事の様子(写真・三輪塗装).JPG

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