ゴミブツ対策、現場の真の姿を確認へ

塗装工場で永遠に尽きることがないのがゴミブツ対策だ。そうした現場で湯澤智氏は"クリーン化技術コンサルティング"として活躍している。本紙連載中の「『見える化』で進める異物不良対策」は塗装工場の規模に関わらず実践的な内容と好評を博している。大手楽器メーカーなどで自動車内装部品の外観品質向上に従事し、これまで国内外50社以上の工場で異物対策を中心とした技術指導を行ってきた湯澤氏に、ゴミブツ対策現場でどのように感じているのかを聞いた。


‐‐‐‐多くの工業塗装現場でゴミブツに頭を悩ませています。

「ゴミブツ問題のない塗装工場は基本的にはないと言えます。ただし明確な管理限度や品質限度が決まっていないために見逃されている場合はあると思いますが。そうしたゴミブツが後々になって塗膜の剥がれやブリスター(膨れ)の問題に結びついていく潜在的な問題になっている。つまり、私の経験上、気づいているか潜在しているかの違いはあるものの、ゴミブツ問題のない塗装工場はないですね」

‐‐‐‐対策の考え方として気をつけるべきことは何ですか。

「ゴミブツ不良の要因は複雑なので調べるには気流や圧力条件、温度・湿度管理、生産の平準化、塗装ラインのタクトがどうなっているのか、コンベアの動きなどさまざまなことを見える化することが必要だと考えています」

‐‐‐‐ゴミを見える化する方法は。

「空気中のホコリ(浮遊塵)を測るものは世の中に数多くあり、実際に私が使っているのはオムロン製の粗粒子エアパーティクルセンサーですが、5μm~50μmまでのサイズのホコリを図ることができ、改善に不可欠なツールです。しかし、浮遊塵がゼロであっても、異物不良がゼロにはならないということがよくあります」

‐‐‐‐なぜですか。

「それは浮遊塵と付着塵の性質の違いに起因します。浮遊塵が自然落下するスピードは大きなサイズの異物ほど速いため、サイズの大きな異物は比較的速く落下して付着塵になるのに対して、サイズの小さな異物は長い時間空気中に漂い続ける性質があるのです。もちろん初めから素材表面に存在している付着塵もあります。ですから外観不良として問題になる数十μm以上の付着塵の見える化の精度を高める必要があると考えています。そこで私はオリジナルの『付着塵ロガー』を作製して現場で活用しています」

‐‐‐‐それはどのようなものですか。

「仕組みとしては20~30cmサイズの黒い板がありそこにホコリが落下する。黒板に照明が当たり付着塵は光り、その画像を上から撮影して解析します。録画して画像解析にかけることで自動的に付着塵の数をカウントでき、付着塵のサイズも自動的に解析できるので、時系列で付着塵の動向が見える化できます。画像解析はエクセルと連動しているので見える化ツールとして、3年前に自作してコンサルティングの現場で使っています。この付着塵ロガーを見た顧客からもう少し大きな装置の要望があったので、現在新たなタイプを開発しています。カメラも高精度のものにすることで解像度が上がり、検出能力も高まります。やはりオンラインで自動分析したいというニーズは強いように感じます」

‐‐‐‐ゴミブツ問題ではまずは見える化、そして分析が対策として重要になるということですか。

「そうです。それも時系列で付着塵の動きを分析できれば、工場内でのイベント(事象)との関連性が明確になるので、時間軸のデータは非常に効果的です。その情報がオンラインで取れるならば理想です。私の考えとしては浮遊塵がゼロは必要条件です。十分条件ではないけれども必要条件。それでも問題のある工場はもう少し大きめの付着塵、言い換えると落下塵と呼ばれているものを管理する必要があります」

‐‐‐‐その他のポイントは。

「気流の見方です。気流をそこまで気にしている工場は多くないです。気流は見ているようで見えていないもので、実際それを見える化するのが鍵になります。結果や単発的なものではなく時系列でのデータが必要になります。例えば、塗装ブースの吹き流しをチェックシートで朝夕管理する工場は多いと思いますし、それを実行するとしないでは雲泥の差があると言えます。ただブースの吹き流し、つまり吸気と排気のバランス、これは生産量とも連動するので、1日の中でも変動するわけです。そうすると、チェックは1日2回では少ないでしょう。今はちょっとした機械であればコストも安くすむので、私はそうした手法を勧めています」
‐‐‐‐気流を見える化する手法は。

「私は圧力と風速の管理の他に、流体シミュレーションの手法を利用して塗装ブースを模した3次元モデルで風の流れを解析するようにしています。これにより各種条件によって気流を再現することができます。例えば、風が天井から床に抜ければ、原則渦は発生しませんが、側面排気になると渦が発生しやすい。対策としてパーテーションを設けて渦の場所を外にしたり、フィンで風を回して渦を抑えたりするなどの対策の事前評価を行うことができます。あくまで定石、原則ですのでそれだけでは不十分ですが、『実際にこういう現象が起こっている』と見える化することが重要です。現象が目に見えないために苦労していることが多いので、これが見えるだけで対策は格段に進めやすくなります。これは確信しています。次に問題が起きたときも検証しやすいですし、検査結果だけでなく現場の真の姿を確認するためにも見える化をしましょうと伝えています」

‐‐‐‐ありがとうございました。



湯澤智氏
湯澤智氏

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