修理ノウハウを蓄積し、安全を担保する

4月から特定整備認証制度が始まった。東京第1号で認証を取得した板金塗装工場の優流(東京都八王子市)。社長の斎藤和実氏は日本自動車車体整備協同組合連合会の技術委員として第一線で特定整備認証に関わってきた一人だ。同氏に制度の現在と今後の車体修理の方向性について聞いた。


----4月から特定整備認証制度がスタートしています。

「今まで既存の分解整備は原動機や動力伝達装置などの7項目に関わる整備でしたが、自動運転レベル3以上の自動運転を行う自動車に搭載される自動運行装置の修理を行うための認証が特定整備です。今回、新たな制度により、①既存の分解整備のみを行う工場②新たに特定整備となる作業のみを行う工場③既存の分解整備と新たな特定整備の両方を行える工場ができることになりました。人材に関しては国土交通省主催の講習を受講した電子制御装置の整備主任者の資格が必要になります。ただ、新型コロナウイルス感染症の影響により、認証の取得が非常にスローペースとなっている現状があります」

----具体的な新型コロナウイルスの影響は。

「人を多く収容しなければならない講習は3密に当たるとして、電子制御装置の整備主任者の講習は控えている状況です。ただ、東京の運輸局ではそろそろ講習が始まると聞いています。そうなると、少しずつ動きが出てくるでしょう。認証の証明である若草色の看板も関東圏では少しずつ整備が進んでいます」

----電子制御装置の整備主任者講習の内容はどのようなものですか。

「実地試験は実際の自動車を使用しエーミングの方法を学びます。学科講習は今回運用される制度的なことが主になります。最後にきちんと理解しているか試験があります」

----今の板金塗装工場さんの動きとして何か傾向はありますか。

「今回の制度では、協業してもいいということになっています。しかし、私の知る限りそのようなところは今のところ聞いていません。契約書の取り交わしの煩雑さもあり、エーミングなどのツールは自社で導入した方が便利ですし、先を見据えている工場では用意しています。実際に先進安全自動車の修理を積極的にしていくならば、自社でツールを導入するほうが良いと思います。当社でも、スキャンツールなどの必要な道具は揃えています」

----今回、エーミングに関してある検証を行ったと伺いました。

「エーミング作業については平滑な場所でやらなければならないと定めてあります。ただ、技術的な好奇心から、仲のいいお客様からあるメーカーの自動車をお借りし平滑ではない場所であえてテストして見ました。実際にスキャンツールを使用して正規の方法で修理したにもかかわらず、レーンキープ機能が不具合を起こしました。白線を読んでいるはずなのに、ハンドルが右に勝手にずれていき、レーンを超えようとしてしまいました。今回、自分の良く知っているお客さんの自動車での検証でしたが、お客様にこのまま納めたら事故を起こす可能性もあります。このことで、正確な修理の重要性を改めて認識しました」

----資格取得だけでなく、ノウハウ蓄積が重要になりそうですね。

「わざとエラーをつくってみることで、どう動くかを検証することは必要なことだと感じました。メーカーのセオリー通りの教え方で納得するのではなく、修理ミスをしてしまったらどうなるのか知っていることが重要です。メーカーや車種によっても実装されている機能は違いますが、今後も折を見てさまざまな検証をしてみたいと思っています」

----修理品質がより重要になってきています。

「我々はぶつからないような機能をもった自動車を修理していきます。ただ、やり方次第ではぶつかる車を作ってしまう可能性があることを強く意識して修理をする必要があります。例えば、自動車の進路を決定するスラスト角が1度違うと100メートル先だと2.7メートルずれることになります。カメラやレーダーがそれを認識することになるため、文字通りミリ単位の作業が重要になっています。ユーザーの安心・安全をきちんと担保できる技術が一層求められています」

----その他、安全・安心のために自社で行っていることはありますか。

「その他にも整備記録簿を基にお客様に説明しています。また、トータルショップとして中古車も販売しています。自動ブレーキなどがきちんと作動するか、一緒に乗ってチェックしています。また、レーンキープなどの機能の使い方も教えている。お客様はきちんと教わってこそ便利な機能が使えます。売って終わりではなく、どんな機能か実際に体感してもらいながら説明することで、お客様の信頼感はより高まります」

----今後の板金塗装工場の課題は何ですか。

「先ほどの検証の件もそうですが、同じ板金塗装工場の仲間とエーミング作業の情報共有ができれば、より技術力の面で強固になります。日車協内でも共有していきたい。きちんとした修理ができる工場が1社でも増えれば、板金塗装工場の地位向上にも一歩近づきます。今回の特定整備認証は板金塗装工場が変わるチャンスと捉え、前向きに取り組んでいく。そのためにきちんと法的にも対応しているところが適切に事業を行えるよう、サポートしていきたい」

----ありがとうございました。



斎藤和実氏
斎藤和実氏

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