第10章 ビジョンを浸透させる
前章で触れた会社のビジョンはあくまで会社が設定した理想像です。それぞれの社員の立場からすると、個人の夢や目標の実現が会社のビジョン実現とつながることでより現実的なものになるのではないでしょうか。今回は、会社のビジョンと個人のビジョンをリンク(関連付け)させていく取り組みについて話を進めていきます。

アメリカの有名大学が10年かけて調査をした結果があります。学生の67%が明確な目標がなく、30%が明確な目標があり、3%は明確な目標を紙に書いていると答えました。すると10年後、30%の人は67%の人の2倍の年収、3%の人は残りの97%の人の10倍の年収があったとことが明らかになりました。この結果からも個人レベルで明確な目標を立てて、それを視覚化することがいかに大切かを証明しています。人生で結果を残すには、個人でも明確なビジョン設定が必要なのです。

私は社員に対して、毎年1回、その時点の個人ビジョンを書いてもらい、共有してもらいます。毎年継続する理由は、生活環境の変化とともにビジョンが変化するからです。また、継続することにより、ビジョンがより鮮明に描けるようになり、それに対しての責任感が芽生えてきます。
具体的には個人ビジョンシートという紙を使用します。個人が持っている夢や理想を、本人がイメージしやすい形で、文章や単語、絵など自由に表現してもらいます。

個人ビジョンシートはA4の紙を縦にして、縦軸を時間軸とし、現在を最下部、死ぬ時を最上部とします。そして左右を2分割し、まず左側に人生ビジョンを書き込みます。慣れないうちはとにかく内容はなんでも構いません。恋愛、結婚、住まいの購入、独立時期や引退時期、私生活で達成したい夢・希望・目標を時間軸にそって、書き出します。1人で考えてもいいですし、家族と相談しながらでもいいです。
そして、右側には仕事のビジョンを書き込みます。どの時点でどんな立場になっているのか。またその立場になるにはそれぞれの時期でどんな能力や技術を身につけなければなければならないかを考え、記入していきます。
 ここで大切なのは人生ビジョンと仕事のビジョンをリンクさせるという点です。仕事上では少なからず、成長していきますので、その成長スピードと人生の夢の実現のスピードが合っているかを確認する必要があるわけです。

そこで必要となるのは会社のビジョンとリンクさせて考えてもらう作業です。前章で触れましたが、私たちの会社では明確な経営ビジョンがあります。そして、その経営ビジョンを実現するための組織ビジョンを作っています。またその組織ビジョンを「未来組織図」にしています。
そのためにまず、現在の組織図を作ります。当社は現在社員10人なので、その状況を組織図に落とし込み、次にゴールの組織図を作ります。また、私たちには「2025年に社員20人」という組織ビジョンがあるので、その規模での組織図を作ります。それができたら、現在からゴールまでにどのような組織拡大が必要かを考え、現在からゴールまで1年ごとに組織図を作ります。組織としての毎年の目標を組織図にしていくわけです。加えて、私たちは売上目標も明確にしていますので、労働分配率を掛けることで、毎年の総人件費の予測が立ち、組織におけるどの立場がどのくらいの収入になっているかが明確になっています。それを社員と共有することにより、X年後の組織図の中で、自分がどの立場になっていれば、どれだけの収入が得られるのかをイメージしてもらっています。

そして、個人ビジョンシートと組織図を時間軸で見比べていきます。個々の人生ビジョンはできているので、それを実現するためにどれだけの収入が必要なのか、その収入を得るのは社内でどの時点でどの立場になることが必要なのか、リンクさせて考えてもらいます。そうすると、仕事でどのような目標を達成していかなければならないかが明確になり、仕事のビジョンと人生ビジョンのずれを発見し、仕事のビジョンを見直すことができます。人生の夢や希望を達成するために、仕事のビジョンを作ることができるので、仕事の目標がより身近になり、自己成長と夢の達成がリンクされます。

ちなみに経営者の個人ビジョンはより明確でなければなりません。経営者のビジョンは会社のビジョンにも大きく影響するので、経営者こそ個人ビジョンを明確にする必要があります。

「やりがい」と「生きがい」
板金塗装業に限らず、社員のやる気は、金銭的報酬の大きさだけで維持することはできません。人生ビジョンとリンクした明確な目標を設定することで、目標を現実のものとしてイメージしながら仕事に取り組むことができ、結果として個々の社員が仕事に対し高いモチベーションを維持することにつながります。
 また、業界の抱える問題の1つである「社員の離職」問題を解決する1つにもなるでしょう。先の見えない仕事、将来の見えない環境では、社員は安心して働くことができないのではないでしょうか。社員のやる気を継続させるには、仕事をしながら、生きがいを見出してもらうことが不可欠です。自分の夢をかなえるために働くことができれば、「やりがい」と「生きがい」をリンクしてもらえるのではないかと私は考えています。

プロフィール: 伊倉大介氏(いくら・だいすけ)。1976年生まれ。東京都目黒区出身。
1997年伊倉鈑金塗装工業代表取締役に就任。2003年コーティング事業開始。2007年オークション代行業務開始。2008年廃車受付業務、レンタカー業務開始。2011年BP経営支援会社「アドガレージ」設立、代表取締役に就任。2012年1月現在、社員10名、修理工場8人体制。