皆さん、こんにちは。「技術を旅する」今回も「塗膜剥離」についてお話しをします。

原因を突き止める考え方

以前、塗装技術を使って亜鉛めっき鋼板に接着剤を塗るという仕事をしていました。2004年頃、塗った板を更にゴム加工する業者から、接着力が悪くなったと連絡があり、調査したところ、金属と接着剤との間で剥離することが判明しました。「今まで通りなのに、何故だろう?」これが剥離不具合の嫌なところです。

前回の剥離の話もあり、つき詰めて考えるうちに、次のような図で項目を整理するに至りました。

この図は塗膜(接着剤)の密着は、①塗料②素材③環境・加工と3つの条件が揃って成り立つことを表しています。ポイントとなるのは、同じ塗料と素材を使っても、時間経過も含め、加工や暴露環境により被塗物や塗料の状態も変わるため、環境・加工条件を入れているところです。

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何も変えていないのにも関わらず、密着が弱くなったということは、実は3つの条件の重なりから外れているということです。

いろいろな条件を確認するうち、従来よりも接着剤の膜を極端に厚くしたところ、密着力が向上しました。しかし、それだけでは解決にはなりません。原因の特定が必要です。そこで改めて疑ったのが接着剤でした。

RoHS規制対応の影響

「なぜ最初に接着剤を疑わなかったのか」と思う方もいるでしょう。それは支給材だったのです。

発注元も単に材料手配していただけで、情報を把握していませんでした。しかし、調べてみると製品名は変わらないものの、使用中の番号が以前の番号と異なっていました。

そこで接着剤メーカーに直接問い合わせたところ、欧州のRoHS規制の対応で六価クロムフリーになったと分かりました。メーカーによると、「既定の膜厚があれば、従来と同等の性能は確保できる」との説明です。

以前の製品は、膜が多少薄くても使用上の性能が出ていました。また顧客の要望もあり、なるべく数多く塗ることでコストダウンに貢献していました。今回それが裏目に出てしまいました。

密着用のプライマーでも塗料の成分が変わると、密着力に影響することがあります。その後、この話はどうなったか?結果として、信用と仕事と経験を得ることができました。

次回は「技術者倫理」の話をします。

小柳塗工所・小柳拓央氏
1968年生まれ。1992年、中央大学理工学部土木工学科卒、同年、カーナビメーカーに入社、バードビュー表示や音声ガイダンスの開発に関わる。 1997年、家業の(有)小柳塗工所に入社。1999年、父親である先代社長の急逝により代表取締役に就任。2010年、これまでの技術経歴を生かすため、国家資格である技術士資格(金属部門)を取得、2012年には総合技術監理部門を取得。以来、中央大学理工学部の兼任講師、東京工業塗装協同組合理事、東京商工会議所墨田支部評議員の公職も務める。