皆さんこんにちは。技術を旅する今回は「技術者倫理」の話をします。少々難しい話ですが、噛み砕いてお話しますのでお付き合いください。

技術者倫理ってなんだろう?

倫理なんて言葉を聞くと、哲学者が出てくるイメージで難解に感じる方もいることでしょう。しかし、ここでいう倫理は、職業を持つ人ならば誰でも持たなければならないもの、つまり職業倫理です。技術者の場合、簡潔に言うと、"機械は壊れ、人間はミスをする。知りながら害をなすな"です。ちなみに「知りながら害をなすな」とは経営の神様、P・ドラッカーの言葉を引用しています。

世間一般の人は、構造物や建物、乗り物、家電製品など、技術者が関わった製造物を無意識のうちに信用・安心して利用しています。しかし、これらが危険なものだと分かっていたらどうでしょう?

例えば、「危ない橋は渡れない」「ブレーキの効かない自動車には乗れない」―つまり、経済活動や日常生活が成り立たなくなるのです。意図的でなくても、危険が分かった以上は、放っておいてはいけません。

それでは、我々の塗装で人に害を与えてしまうようなことがあるのでしょうか?それはあり得えます。

最近報道であった事例では、2013年の新型飛行機ボーイング787での燃料漏れ事故です。これは塗装のマスキングの施工不良が原因でした。引火したら、どういうことになるのでしょう?実は怖い話でした。

また、経済活動に影響したのは、2014年3月の首都高速3号線の改修作業中の火災です。3、4日間通行止めになりました。原因は、塗装剥離作業中の溶剤に電球が接触したことによります。この2つの事故は、「知りながら」起こったことではありません。いずれも過失です。しかし、教訓にする必要があります。

ものづくりは人がやることですから、一生懸命やっていてもどこかで知見の不足や落ち度があってトラブルに直面することがあります。

世に送り出してから、一般の方に危害があってからでは手遅れです。「知りながら~」というのは、少なくとも「不具合になることを承知しながら事を進めるのは止めましょう」という話です。これを技術者が心に留めておき、過去の失敗や経験を生かすのが技術者倫理です。

塗装業界も例外ではありません。技術者倫理は、逆に意識して実践することで技術が高まり、信用の蓄積となります。また、自分自身や組織を守るためにも役立ちます。

ここまで来ると、小柳は真面目で頭が固いなと思う方もいるでしょう。しかし、私自身も技術者倫理を意識するようになったのは、当事者になったことがきっかけでした。

次回は、塗装の実務で経験した技術者倫理の事例をお話します。

小柳塗工所・小柳拓央氏
1968年生まれ。1992年、中央大学理工学部土木工学科卒、同年、カーナビメーカーに入社、バードビュー表示や音声ガイダンスの開発に関わる。 1997年、家業の(有)小柳塗工所に入社。1999年、父親である先代社長の急逝により代表取締役に就任。2010年、これまでの技術経歴を生かすため、国家資格である技術士資格(金属部門)を取得、2012年には総合技術監理部門を取得。以来、中央大学理工学部の兼任講師、東京工業塗装協同組合理事、東京商工会議所墨田支部評議員の公職も務める。