皆さん、こんにちは。「技術を旅する」今回は「塗膜剥離」です。
10年前のことです。当時、量産受注していた製品にアルミダイカスト部品がありました。事前の調整で塗装仕様はアクリル系の1コート対応で、試作・性能確認したのち、量産に入りました。生産開始から問題なく順調に生産していました。
ところが1年程経過した頃です。扱う部品種類も増えて、総生産数が増えてきたころ、顧客のアセンブル工程で密着不良が発覚、すぐに呼び出されました。

原因は何だ?

状況を把握するまで、生きた心地がしませんでした。しかし、現象を確認していくうちに、徐々に事実が明らかになってきました。

●事実1:剥離した部品は数種類あるダイカスト部品の中で1点のみ。
●事実2:塗装色は2色あるうち、2色とも剥離した。
●事実3:剥離は最近のもので、古いロットは剥離しなかった。

皆さんでしたら、何を疑いますか?

全部品で剥離が生じるのであれば、塗装工程の管理、まず前処理を疑います。しかし、1部品だけ剥離するとはどういうことでしょう?

そこで調べたのはダイカストの加工工程でした。最近何か変えていないか?現品票を見る限り、ダイカストの加工業者は変わっていません。

しかし、調査が進むにつれ、加工業者が増産対応で外注に出していたことが判明しました。剥離が起こったのは実際、外注先で加工した部品でした。顧客の品質管理担当者も、外注加工品も図面記載の寸法精度に何ら問題ないため、ダイカスト生地としては良品と判断していました。

工程の差分の中に原因有り

仮に試作段階や生産開始直後から剥離しているのであれば、塗装の工程設計に問題があると考え、ダイカストにブラスト処理をするか、下塗りで密着用のプライマーを採用するなどの対処ができます。

しかし、今回の不具合は、量産製造している中で製造業者を変えてしまったことに起因します。

根本原因は、ダイカスト製造業者が採用した離型剤に影響するものでした。加工業者の担当者も、「ノンシリコン」「水性」タイプの離型剤を使用するようにと指示しましたが、それだけでは不十分で、同じメーカーのものでも塗装性の向き、不向きの選択肢もありました。離型剤メーカーの技術資料を見たところ、「塗装性に影響がある場合がありますので、実際の密着性をご確認の上、ご使用ください」と記載もあります。実際使用していたのは塗装品には不向きの離型剤だったのです。

一言で「相性が悪かった」と言えば終わってしまいます。しかし、念のため確認は必要ですね。

次回も「塗膜剥離」の話をします。

小柳塗工所・小柳拓央氏
1968年生まれ。1992年、中央大学理工学部土木工学科卒、同年、カーナビメーカーに入社、バードビュー表示や音声ガイダンスの開発に関わる。 1997年、家業の(有)小柳塗工所に入社。1999年、父親である先代社長の急逝により代表取締役に就任。2010年、これまでの技術経歴を生かすため、国家資格である技術士資格(金属部門)を取得、2012年には総合技術監理部門を取得。以来、中央大学理工学部の兼任講師、東京工業塗装協同組合理事、東京商工会議所墨田支部評議員の公職も務める。