今回は塗装屋として技術士を目指した理由についてお話しします。私は技術士という資格の存在を、学生の時に知りました。しかし、土木工学科ということもあって、工業試験所の先生や公共事業を取るための資格という固定観念がありました。

この固定観念を打ち破ったのが、たまたまWebで「塗装技術」と検索した時に、ヒットした「塗装技術コンサルタント」の平田さんです。2005年のことです。その頃は、まだ自分には無縁なものだと思っていました。2年ほど経過し、40歳になる前に、「不惑の四十というが、そういう自分になれるのであろうか?」と思った時、ふと心の片隅にあった技術士資格を思い出しました。

技術士を目指した理由

極論すると、技術士は国の信用を得て"技術士"と名乗れるだけの資格です。裏を返すと、技術士と名乗って成立するものは、何をやってもよいのです。私の考えはこうです。

1)顧客獲得への差別化

現在では、ホームページを持つ会社が多くなり、情報発信の差別化が難しくなりました。技術士という信用は、商売の武器に成り得ます。

2)ネットワークを広げるため

町工場の経営者という立場では、会うことが難しい人とでも、会いやすくなります。要はパスポートです。経営者や業界団体としての枠を超え、人とのご縁ができます。実際に、技術士会の方々は大手企業や研究機関の技術者の方々が多く、技術的な情報交換ができ、人脈となり得ます。

また行政との折衝もやりやすくなります。実際、行政関係の方は政策を検討する上で、業界の現状を知る必要があり、何度か工場視察の依頼を受けたことがあります。その結果、今まで環境対策など声を上げても届かなかったことが、とりあえず意見は聞いてくれるようになりました。

3)生き残るための自信と生きた証

後継者として、単に会社を引き継いだだけでは、これからの時代、生き残れません。また、良し悪しに関わらず、劇的に変わらなければならない事態が起こるかもしれません。
例えば、いざ大震災のような不測の事態に直面した時、這い上がるための手段として技術士の名称を使う。ある種のリスクマネージメント、お守りの類です。
先代の親父が何を望んだか、今さら分かりません。しかし、私自身が、自分の色をどう出すか?「人と違うことをしたい、何か勝負したい、自信を持ちたい、生きた証を残したい」そう考えたとき、「技術士になる」という選択に至りました。

私の活動を見て、新たに技術士が登場するのであれば、それは社会にとっての貢献です。ぜひ、次世代のために技術士を増やしたいと思います。

次回からは、実務編として、塗装に絡んだ金属の素材の話をします。

小柳塗工所・小柳拓央氏
1968年生まれ。1992年、中央大学理工学部土木工学科卒、同年、カーナビメーカーに入社、バードビュー表示や音声ガイダンスの開発に関わる。 1997年、家業の(有)小柳塗工所に入社。1999年、父親である先代社長の急逝により代表取締役に就任。2010年、これまでの技術経歴を生かすため、国家資格である技術士資格(金属部門)を取得、2012年には総合技術監理部門を取得。以来、中央大学理工学部の兼任講師、東京工業塗装協同組合理事、東京商工会議所墨田支部評議員の公職も務める。