こんにちは。「技術を旅する」今回はステンレス素材について、お話します。
ステンレスって何だろう?錆に強い金属であるステンレスは、知ってみると実に奥が深い素材です。特徴を紹介していきます。

1)ステンレスの定義

実は定義があります。鉄(Fe)が50%以上で、クロム(Cr)が10.5%以上を含む合金です。SUS304、SUS430など、さまざまな鋼種があるのは、添加元素と金属組織の違いで用途に応じているからです。

2)磁石につく/つかない

ステンレスには、磁石につくものとつかないものが両方存在します。一般的に多く使われているのが、SUS304(18-8系、Cr18%、ニッケル(Ni)8%)です。オーステナイトと呼ぶ金属組織で磁石につきません。フェライトやマルテンサイト組織のSUS400系等は磁石につきます。これらは、身近では冷蔵庫の外装、洗濯機のドラム、包丁などで使われています。

3)なぜ、錆びにくいか?

ステンレス中のCr成分が、表面に不働態皮膜を作り、酸素や水との結合を防いでいるからです。
この不働態皮膜の長所は多少キズついても自己修復する点です。しかし、修復速度が限度を超えたときには、発錆するので注意が必要です。

4)塗装との関わり

①前処理について

塗装の素材としてのステンレスは不働態皮膜があるため、リン酸塩系の前処理では皮膜が付きません。ただ脱脂しただけの状態です。化成処理した鉄鋼材と比べて塗料の密着が悪いのはこのためです。化成処理をするならクロム酸系が適します。

②設備上の注意

前処理や水洗ブースなど、工場内の水回りでの扱いには注意が必要です。錆に強いステンレスですが、塩酸や塩に含まれるCl-イオンは、不働態皮膜を破壊します。塗装工場では、イオン交換樹脂を使用したタイプの純水装置が関係します。樹脂再生の際に塩酸を使用するため、塩酸まわり部分には、塩ビかホーローを使用し、ステンレスは使用しません。なお、塩酸は気化し人体にも有毒ですし、腐食力が強いので注意が必要です。

また、ステンレスと直接接合した鉄製のアングルや配管などは、腐食の進行が早いです。これは異種金属管腐食によるものです。塗装やライニングなどでステンレスと遮断するか、あるいは亜鉛やアルミなど、交換可能で鉄よりももっと腐食しやすい金属を挟んで犠牲防食という方法で対応します。設備を長持ちさせるポイントです。

「技術を旅する」次回は、素材編アルミの話をします。

小柳塗工所・小柳拓央氏
1968年生まれ。1992年、中央大学理工学部土木工学科卒、同年、カーナビメーカーに入社、バードビュー表示や音声ガイダンスの開発に関わる。 1997年、家業の(有)小柳塗工所に入社。1999年、父親である先代社長の急逝により代表取締役に就任。2010年、これまでの技術経歴を生かすため、国家資格である技術士資格(金属部門)を取得、2012年には総合技術監理部門を取得。以来、中央大学理工学部の兼任講師、東京工業塗装協同組合理事、東京商工会議所墨田支部評議員の公職も務める。