こんにちは。「技術を旅する」今回は素材編「亜鉛」です。

塗装と亜鉛の関わり

亜鉛の融点は419℃でアルミニウムの660℃よりもさらに低く、塗装の単体被塗物としての亜鉛は、この低い融点を利用したダイカスト・鋳造の類がほとんどです。ただ実際は化成処理のリン酸亜鉛、表面処理鋼板、溶融亜鉛めっきなど、塗装の前処理用途としての関わりが多いです。

亜鉛表面の特徴

亜鉛は「防食性が強い」と言われます。その理由は2つあります。

①保護膜を生成する―亜鉛はアルミニウムと同様に両性金属で耐食領域はpH6~13です。違いはアルミニウムが不動態被膜を生成するのに対して、亜鉛は不動態被膜を生成せず、代わりに表面が反応・腐食した際に、腐食生成物による緻密な保護膜を生成します。この保護膜が、腐食の進行を食い止める働きをします。

②犠牲防食作用がある―亜鉛は鉄やアルミニウム、銅などに比べイオン化傾向が大きく、反応しやすい金属です。この性質を利用して、鉄と亜鉛を接合すると、自然環境下では亜鉛が先に腐食し、鉄の腐食の進行を遅らせ、腐食から守ります。これが犠牲防食です。化成処理のリン酸亜鉛や現場塗装で使用するジンクリッチペイントもこの犠牲防食の効果があり、防食性を高めています。

表面処理鋼板について

被塗物の素材選定に表面処理鋼板を使用することで、化成処理やプライマー工程を省略している方もいるでしょう。表面処理鋼板で気を付けたいのが用途にあった材料選定です。

鉄鋼メーカーのカタログには用途に応じてさまざまな製品があります。中にはOA機器のシャーシのように導電性コーティングが施されていて塗装レスで使用するものもあります。加工屋さんが、たまたま残ったからといって、そのような材料を使用したりすると、溶剤脱脂では問題なくても、アルカリ脱脂とリン酸塩の工程で表面が反応したり、電着塗装では異常な膜になったりします。新しい仕事や通常の生地の感じが違うときには確認をお勧めします。

溶融亜鉛めっき上の塗装

更に注意が必要なのは溶融亜鉛めっき上の塗装です。プライマーを入れ、ウレタン塗装で完全硬化した後、密着テストで一度確認しているにも関わらず、数週間して密着不良で塗膜が剥離する事例があります。

原因は「塗膜の内部応力」「塗料中の脂肪酸と反応して金属石鹸ができる」「保護膜の腐食生成物が膨張する」など1つとは限りません。

対策として、溶融亜鉛めっきに適応するプライマーの選定、表面素地調整など事前の試作による検証や、他で実績のある処理の採用など、予め手順を踏むことをお勧めします。

次は「腐食」について説明します。

小柳塗工所・小柳拓央氏
1968年生まれ。1992年、中央大学理工学部土木工学科卒、同年、カーナビメーカーに入社、バードビュー表示や音声ガイダンスの開発に関わる。 1997年、家業の(有)小柳塗工所に入社。1999年、父親である先代社長の急逝により代表取締役に就任。2010年、これまでの技術経歴を生かすため、国家資格である技術士資格(金属部門)を取得、2012年には総合技術監理部門を取得。以来、中央大学理工学部の兼任講師、東京工業塗装協同組合理事、東京商工会議所墨田支部評議員の公職も務める。