こんにちは「技術を旅する」今回から腐食(錆)の話をします。

錆での苦い経験から

実は以前、夏に納めた製品について秋になってから錆びのトラブルで顧客に呼び出されたことがあります。見ると鉄製品の塗装面が一部指の形で浮き上がっていたのです。塗膜を剥がすと赤錆でした。

社内の塗装の仕上がり検査では不具合は確認できず、納入直後の客先の受け入れ検査も問題ありませんでした。しかし、その間の1カ月ほどで錆が促進したのでしょう、出荷の際に不具合が発見されました。

錆びた部分は、塗装の作業工程で作業者が製品を裏表返す時に持つ箇所でした。当社では普段から手袋を二重にしています。特に夏は汗をかくので手袋の交換も"まめ"にやるよう対策していました。それにも関わらず、手袋から染み出た汗が原因で発錆してしまいました。

不良品の現品票から、塗装した日を遡っていると、なんと東京ではその夏の最高気温の日でした。作業者は普段対策している以上に汗をかいてしまったのです。作業者に汗をかくなとは言えませんし、スポットクーラーは使っているものの、それも完全ではありません。気温が高いときは、塗料だけでなく人間の体調管理も必要なことを痛感しました。

"気を付けよう!汗の一滴、錆のもと"―高い授業料になりました。
ところで、なぜ汗は鉄の錆を早めるのでしょう?

知っておきたい塩化物イオンの話

この時の不具合の主原因は、汗に含まれる塩化物イオン(Cl-)です。これが鉄から電子を奪い、金属表面を不安定にします。その結果、鉄イオン、酸素、空気中の水分との結合が促進し錆へとつながります。

また、錆は膨張するため、一旦、塗膜の下の錆が塗膜を突き破れば、更に空気に曝されるので、錆は短期間で進行します。

ちなみに身近に存在する塩化物イオンは、海水、動物の体液、融雪剤、消毒液、洗剤、食塩等です。生活には欠かせない塩化物イオンですが、その付き合い方が重要です。塩化物イオンは付着して放っておくと、時にステンレスでも腐食させてしまい大問題になります。

製品の塩化物イオンの対策

既に市場に出回っている製品に塩化物イオンが付着した場合は、洗浄し、腐食環境から遮断することで腐食を対策します。ちなみに耐食性のあるステンレス(sus304)でも、ずっと塩化物イオンに触れていれば、腐食してしまいます。この場合、洗い流すことで対策します。

塗装は腐食対策の重要な役割を担っています。扱いの悪い塩化物イオンですが、そのお蔭で我々の仕事が成り立っているのも事実です。

次は、「もらい錆」の話です。

小柳塗工所・小柳拓央氏
1968年生まれ。1992年、中央大学理工学部土木工学科卒、同年、カーナビメーカーに入社、バードビュー表示や音声ガイダンスの開発に関わる。 1997年、家業の(有)小柳塗工所に入社。1999年、父親である先代社長の急逝により代表取締役に就任。2010年、これまでの技術経歴を生かすため、国家資格である技術士資格(金属部門)を取得、2012年には総合技術監理部門を取得。以来、中央大学理工学部の兼任講師、東京工業塗装協同組合理事、東京商工会議所墨田支部評議員の公職も務める。