みなさん、こんにちは。今回は今後塗装業界にも関係してくる「トレーサビリティ」の話をします。

トレーサビリティって何だろう?

この用語を説明するにあたり、まず、他の業界で最近発生した問題を挙げてその背景を見てみます。

食品ではマクドナルドのナゲット異物混入問題。自動車部品ではタカタのエアバッグリコール問題。また、執筆中の今も東洋ゴムで建物の免震装置に使用するゴムにデータ改ざんが行われ、性能不足が判明しました。これは前にお話した技術者倫理にも関わります。

この3つの事例で共通していることは、過失や故意に関わらず、いざトラブルが起こった時に何が原因でどこまで影響するのかを把握し、会社が早急に対応しないと問題がより大きくなり社会的に波及することです。この対策の一つがトレーサビリティ(追跡可能性)です。

トレーサビリティは製造物の原材料から製造、流通、販売まで管理可能なことを意味します。トレーサビリティは手間と費用がかかり、利益が減ると感じる方もいるでしょう。

しかし、他業界を見ると使い方次第で非常時の対応に加えて、海賊版や偽物排除による信用維持が利益に貢献することが分かり、実は取り組む企業・団体が増えてきています。コメや食肉、半導体、衣装関係ではブランド品等が進んでいます。

塗装業界でみると、塗膜の管理そのものにトレーサビリティの適応が考えられます。具体的には①塗料の含有成分②塗装の工程③塗膜性能です。塗料は欧州のRoHSやREACH規制対応による含有化学物質の管理が既に進んでおり、加えて国内の労働安全衛生に絡み、使用溶剤の管理等が厳しくなる方向です。ただし、塗料はあくまで材料の一部です。塗装においては工場での前処理や塗料の配合を含めた工程管理、塗膜管理も関わります。

塗装の偽物とは何になるか?

未承認塗料の使用、勝手な工程変更及び塗膜の性能不足です。特に機能性塗料の場合、性能を計測しないと本物かどうか分かりません。また、本物の塗料を使用していても、規定の工程で膜厚を確保しなければ性能が不足することもあります。

塗料・塗装のトレーサビリティを行うには、どれだけの塗料を購入してどのくらい塗装したか、不良の修正も含めて工程と塗膜の情報を記録することです。高付付加価値品ほど効果があります。

やりにくい世の中にはなりますが、逆に信用を得ることができれば目先の価格競争に落ちることも避けられると考えます。トレーサビリティは関係する会社、業界団体が連携して初めて強固なものになります。今後の動向に注目されると良いでしょう。

次回は最終回です。

小柳塗工所・小柳拓央氏
1968年生まれ。1992年、中央大学理工学部土木工学科卒、同年、カーナビメーカーに入社、バードビュー表示や音声ガイダンスの開発に関わる。 1997年、家業の(有)小柳塗工所に入社。1999年、父親である先代社長の急逝により代表取締役に就任。2010年、これまでの技術経歴を生かすため、国家資格である技術士資格(金属部門)を取得、2012年には総合技術監理部門を取得。以来、中央大学理工学部の兼任講師、東京工業塗装協同組合理事、東京商工会議所墨田支部評議員の公職も務める。