研究開発部門を分社化、横展開を加速

水谷ペイントは4月、研究開発部門を独立させ、新会社「エム・エイチ・エル株式会社(以下MHL)」を設立した。水谷ペイントの子会社の位置づけで、樹脂合成などの研究開発活動を活発化させ、塗料以外の分野にも広く展開していく考え。MHL社長を兼務する水谷ペイントの水谷成彦社長は、「研究開発部門を独立させることで、従来の枠に縛られない着眼と自由な発想に期待している」と創業100周年を迎え、新たなフィールドに挑もうとしている。


「Mizutani Hitech Laboratory」の頭文字を取って名付けられたMHLは、樹脂や原料などの研究開発を主業とする開発専業会社。約5年前に技術統括部の傘下にMHLの前身となる基礎研究室と塗料開発を担う技術部を配備する組織改革を行った時点から分社独立に向けた準備が進められていた。

背景にあるのは、自社塗料の市場展開を図るため、塗料用樹脂の開発から手掛けていた創業時からの歴史に遡る。差別化策の一環だが、1953年には国内初となるビニルモノマー重合合成樹脂塗料「ポリマ♯6000」を開発。その後も水系壁用塗料「ポリマテックス」(1956年)を業界初で発売するなど、独自の樹脂開発が知名度向上に寄与した実績がある。

ただ、そうした樹脂開発も一時は下火になったという。

かつては縮合重合設備を擁し、ポリウレタンやアルキド樹脂など塗料用樹脂を幅広く手掛けていた時代もあったが、ベテラン技術者の退職もあり徐々に縮小。やがては強溶剤系塗料、エマルジョン重合の2つを残すのみとなった。

しかし、水谷成彦社長、水谷勉専務体制になった2003年から再び樹脂開発をコアにしたオリジナル塗料の開発を強化する。

中でも同社にとって大きなターニングポイントとなったのが、ナノコンポジット樹脂塗料「ナノコンポジットW」(2004年)の開発だ。

ナノサイズのシリカを同じナノサイズのシリコンエマルション樹脂で覆ったコアシェル樹脂だが、艶消し仕上げながら従来にない耐候性能が得られるとして外壁塗り替え市場でヒット。更に2007年には、日本3大技術賞の1つである「井上春成賞」を受賞し、同社の技術の高さを業界内外に広める転機となった。

その後も独自塗料の開発に弾みをつけ、バイオマス原料を採用し、石油系資源の削減に寄与する屋根用塗料「バイオマスR」(2010年)、「System M」と称する業界初水系2液硬化システムを採用した「ルーフピアニ」を開発する。市場に比較する製品がないだけに営業現場では難しさも伴ったが、「大手と同じことをしていては生き残れない」(水谷社長)との危機感が独自路線を突き進む原動力となった。

光触媒酸化チタンを本格化

その中で今回、あえて自社の研究開発部門を独立させ新会社にした理由には、開発成果を塗料の製品化のみに紐づけるのは限定的かつ制約が伴うとの判断がある。

水谷社長は「独創的な製品は樹脂から開発するため、製品化までに膨大な時間を要する。ナノコンポジットWの時もそうだったが、樹脂開発から製品化には約8年を要した。しかし、その技術は塗料にしか生かされていない」と話す。そこで、塗料化のための開発は水谷ペイントの技術部が担い、MHLは樹脂など原料的観点から分野、用途を限定しない開発を進める体制を選択した。

そのためMHLは今後、水谷ペイント製品の研究開発機能を受託する一方で、水谷ペイント以外からの開発対応、技術提供に応じていく方針。その先鞭を切る技術として現在、次世代型クラスター型光触媒「AC(アンチコロナ)パウダー」の市場展開を強めている。

「ACパウダー」は、令和元年サポイン事業に採択された経済産業省、金沢工業大学、大阪産業技術研究所、水谷ペイントの産官学共同開発技術。昨年春に技術を発表し、今春、同技術を配合した光触媒抗ウイルス塗料として「ACコートW」「ACコートF」の2製品を発売した。

この技術の最大の特長は、光触媒の活性作用を向上させ、かつ光触媒酸化チタン粒子を無機バインダーで固めることでクラスター化し、ナノサイズからミクロンサイズにした点。

光触媒に用いる微粒子ナノ酸化チタンについては、国内では規制はないものの、欧州では人体に影響を及ぼす可能性があるとして、性状や使用量に応じてラベルなどの表示を義務付けしており、同社としては光触媒作用と安全性を両立した光触媒原料として市場展開に乗り出す。

特に性能面においては、抗ウイルス性、抗菌、抗カビ、防藻性を保持することから、新型コロナウイルス感染拡大に伴う衛生ニーズの高まりを受け、同技術に対する引き合いが増加。フィルムや建材、壁紙関係からも引き合いが寄せられているという。

「ACパウダーはフィラー(充填材)だが、当社にはバインダー合成技術がある。商品化のためさまざまな見地からサポートができると考えている」(水谷社長)と独自技術の横展開に次の成長を見据えている。

◇会社概要△社名:エム・エイチ・エル株式会社△所在地:大阪市淀川区西三国4-3-90△代表者:代表取締役 水谷成彦△資本金:1,000万円△出資比率:水谷ペイント100%



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