地域密着型塗料商社の新ビジネス
デイサービス事業に参入

塗料商社大手の板通(いたつう=本社・栃木県、社長・板橋信行氏)が、要介護のお年寄りへの通所介護、いわゆるデイサービス事業を始めた。新たに建設した「板通デイサービスさくらの里」が5月1日、足利市内にオープン。工業用塗料が主体の本業とは一見かけ離れた事業ながら、介護事業を通じて育まれるホスピタリティの精神や地域とのつながりが事業に大きなシナジーをもたらすとの期待がある。


「板通デイサービスセンターさくらの里」は、足利市内に取得した300坪の敷地に120坪の平屋建ての施設を建設。ケアマネージャーや看護師、介護福祉士などの資格を持つスタッフを新たに雇い、6人体制でスタートした。

要介護認定を受けたお年寄りの入浴、排泄、食事などの一部介助を行うデイサービスを、1日20人をマックスに行う。施設は最大40人まで収容できる広さがあり、将来的にはスタッフを増員して受入数を増やす予定だ。

センターのコンセプトは「大人の学校」。「誰もが共通の思い出として持っている『学校』の雰囲気を演出することで会話も弾み、また記憶が刺激され脳にもいい影響が期待できます」(社会福祉事業部・鈴木裕幸室長)と理由を説明する。

このため廃校になった小学校から机や椅子、アコーディオン、木琴などさまざまな備品を譲り受けて随所にディスプレイ。また施設の一角には黒板、机、椅子を配置して教室を再現したコーナーを設置、実際に学校の授業のようなレクリエーションを行う。「平易なことでもいいので、読む・書く・話す・聴くといったことが認知症の予防にもなります」(同)とし、楽しいレクリエーションとして提供する。

入浴、排泄、食事などの介助サービスに関しても「機能が衰えないようできるだけご自身で行えるように仕向けるのが大切」とし、身体が不自由でも自力で入浴できる浴槽、盛り付けと配膳を自身で行う食事サービスなど"生きる力"を伸ばすための工夫を随所にこらす。

更に特徴的なのが施設内に足湯を設けたことだ。「足湯に浸かることでリンパの流れが良くなり足のむくみを解消。夜中の頻尿が改善され安眠にもつながります」といった効能がある。

この足湯、実は近隣の人たちにも無料で開放している。というより、そもそも施設全体の4分の1ほどのスペースを近隣の人たちに開かれたコミュニティスペースとして設計した。お茶やおしゃべりの場として気軽に利用できる他、趣味や習い事、健康チェック、家族の介護相談、野菜の即売など近隣の人たちが毎日でも寄ってみたくなるメニューが多数用意されている。

例えば、施設に通うお年寄りと近隣の人たちが足湯に浸かりながら会話に花を咲かせるといったように、地域に開かれたデイサービスが施設の最大の特徴だ。人とのコミュニケーションを生み出す環境をつくることが、認知症予防ばかりでなくお年寄りの孤立を防ぐことにも役立つとの考えがある。「地域とのつながり」を施設運営の根底に据える。

多角的な発想やサービスを

 このデイサービス事業は30代の若手を中心とした新規プロジェクト開発チームが発案した。「水の販売やネット販売など本業に近いところで行える案も出たのですが、最終的に残ったのが高齢者へのデイサービス事業でした」(同)と説明する。

同社にとって異なる分野の事業ながら、必要な資格や体制、施設のプラン、事業計画などを同社取締役の西巻昭彦氏と前出の鈴木裕幸氏が牽引してかたちをつくり、「事業の骨格が見え出してきた」(板橋信行社長)ことで「GO」サインを出した。

社内に新たに社会福祉事業部を創設、実質的に施設を取り仕切る室長には鈴木裕幸氏が就いた。事業プランが持ち上がってから住環境コーディネーターや介護請求資格、実務者研修、食品衛生責任者、福祉専門相談員などの専門資格を多数取得、「勉強すればするほどこの事業の社会的な大切さが分かりますし、ぜひとも軌道に乗せていきたい事業」と熱が入る。

板橋社長は今回のデイサービス事業の立ち上げについて「本業とのからみという点では、例えば当社の建装事業部が介護リフォームのアプローチをする、あるいはコミュニティスペースで内装塗り替えのワークショップを開くなどのことも考えられますが、直接的な関係というよりもむしろ、会社全体で共有できる精神性的なものにシナジーを期待したい」と語る。

社会福祉を行う事業部を社内に立ち上げ、実際の福祉施設を運営することで蓄えられるサービスの発想、ホスピタリティ、地域の中での自社の存在と役割の再認識など、本業だけでは得られない多角的な視点や感性を会社全体で共有することに価値を置く。

工業用ユーザーとのB to Bビジネスを基幹に据え、アジアを中心にグローバル化も進めている同社。その対極と言ってもよい高齢化や地域活性化といった生活者レベルの問題に向き合って得られるサービスノウハウや精神性が、やがては自社のビジネスの幹を太くすると照準を定めている。



トップライトの光で明るい施設内
トップライトの光で明るい施設内
板橋社長(後列右から2番目)とスタッフ
板橋社長(後列右から2番目)とスタッフ
施設内に設けられた足湯
施設内に設けられた足湯

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