新たな「黄色」で安全と景観を両立
新点字誘導ブロック開発

視覚障害者用の黄色い誘導ブロックで、利用者が視認しやすく、かつ周囲との調和性に優れる新たな色合いの点字誘導ブロックを東京大学・分子細胞生物学研究所の伊藤啓准教授らのグループが開発した。研究には同大教授で著名な建築家・隈研吾氏の他、ブロックメーカー各社やDICカラーデザインが加わった。「色」によってバリアフリーと景観を両立させた点字誘導ブロックとして今春よりメーカー各社から発売される。


「色」にはそのデザイン性によって景観をコントロールする側面と、色の識別性によって情報伝達を行う側面がある。そこにバリアフリーの観点を加え、色の社会性をより高めたのが今回のプロジェクトだ。

点字誘導ブロックは国土交通省のバリアフリーガイドラインで「視認しやすい黄色で、周囲の路面と明確なコントラストを確保する」ことが推奨されているが、特段の規定はない。ただ安全性へのイメージからJIS安全色の黄色を用いるのが一般的で、点字誘導ブロックの色として定着していた。

注意喚起を促すJIS安全色の黄色は遠くからでも視認しやすいよう極端に目立つ色にしている。このため周辺の環境や建物のデザインと調和しにくく黄色い点字ブロックを避けたがる建築家やデザイナーが多い。近年では白や黒、グレーなどモノトーンの点字誘導ブロックが各地で広がっている。

一方で点字誘導ブロックは全盲の人だけでなく、全国に約100万人いるとされる視力の弱い人にとっても「安全な経路を示す色の帯」として機能している。景観との調和を優先させた近年の無彩色のブロックは利用者から「路面に溶け込んで見えづらく危険」との批判も出ており、視認性と景観との調和を両立する点字誘導ブロックの必要性が高まっていた。

そこで伊藤准教授らのグループは景観との調和を損なわない淡い色合いの黄色の中で彩度や明度、色相を変化させた17色の誘導ブロックを試作し、実際の利用者などのべ150人の協力を得て1年間にわたる実証実験を実施。天候や時間帯、汚れや退色が進んだ状態などさまざまな条件下での見え方を検証した。

その結果、17色の試作ブロックの中から黄緑側に寄った「クールイエロー」とオレンジ側に寄った「ウォームイエロー」の2色を最も見えやすい色として特定した。これらの色のブロックは視力の弱い人にとって従来の濃い黄色と同等の視認性があり、特に夕暮れ時には同等以上の視認性を示すことが確認できた。

研究結果については「社会的な必要性が高い」(伊藤准教授)とし、特許取得や学会発表を行わず商品開発を優先させる。コンクリートやタイル、セラミック製のブロックとしてLIXILなど4社のメーカーから5製品が今春発売され、早期の普及を目指す。

伊藤准教授は「オリンピック・パラリンピックを控え、ユニバーサルデザインの普及が求められている中で、視力の弱い人と建築家やデザイナーの両方のニーズを満たす今回の開発は、バリアフリーと景観両立の大きな一助になると期待しています」とコメント。

また建築家の立場からプロジェクトへの助言を行ってきた隈研吾氏は「建築全体の中で異物感を醸す濃い黄色の誘導ブロックは、建築デザインにとって大きな問題でした。今回のウォームイエローとクールイエローのブロックはこれまでの黄色より遥かに景観や建物に調和し、しかも視認性能に優れるという非常に社会性の高い商品開発です。ぜひ普及させていきたい」と期待を示した。

視力の弱い人だけでなく、高齢化社会に向かう中で「色」による情報伝達(カラーユニバーサルデザイン)やバリアフリーといった観点はますます重要性を帯びてくる。塗料という街中で最も使われている色材を扱う業界としてその知識と提案力は高めたいところだ。



伊藤啓准教授
伊藤啓准教授
隈研吾氏
隈研吾氏
新規色の誘導ブロック
新規色の誘導ブロック

HOMENew Trend新たな「黄色」で安全と景観を両立

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