コロナで見えた塗料流通の役割
ICTで新たなビジネス様式始動

コロナ禍で人と人が対面したリアルなコミュニケーションが制約される中、塗料ディーラーが新たなサービスを始めている。ビデオ会議システムを利用した顧客向けのオンラインセミナーの開催だ。人同士の接触を避けるだけでなく、場所の制約や移動の負担もないとして参加者には好評でビジネス上のコミュニケーション手段として有効性を確認。ウイズコロナ、アフターコロナの時代に向けた新たなビジネス様式の模索が業界でも始まっている。


5月の最終週、首都圏の緊急事態宣言がようやく解除されたものの新型コロナ感染への警戒はまだ強く、訪問自粛が続くなど産業界の動きも鈍い。

そうした中、神奈川県に本社を置く建築用の塗料ディーラー2社が歩調を合わせるかのように新たな動きを始めた。ビデオ会議システムを利用した顧客向けのオンラインセミナーの開催だ。5月25日に荻野化成(横須賀市、荻野圭輔社長)が、同27日にフジミ(小田原市、清元秀社長)がそれぞれ独自のテーマでオンラインセミナーを開催。感染防止で顧客との直接的な接触が制約される中、情報提供の手段としてビデオ会議システム「Zoomミーティング」を活用、得意先との新たなコミュニケーション活動を始めた。

Zoomミーティングはパソコンやスマホ、タブレットなどの画面上で参加者の顔を映しながら会話やミーティング、チャット、データの共有をリアルタイムで行えるコミュニケーションツール。コロナ下で仕事を進めるため多くの産業でテレワークやテレビ会議などのリモートワークが広がる中、低コストかつ簡便に利用できるコミュニケーションツールとして利用が広がっている。

5月25日に荻野化成が行った顧客向けセミナーのテーマは「建設・リフォーム会社対象コロナ資金調達実践ZOOMセミナー」。事前の告知期間が限られていたにも関わらず、塗装事業者を中心に30名ほどの得意先が手持ちのパソコンやスマホなどで参加した。

荻野圭輔社長はセミナーの初めに「(5月の)現段階では大丈夫でも、2~3カ月後には急激に市況が悪化するかもしれません。そのときに備え、早いうちに手元資金を確保しておくことが大切です」と資金調達セミナー開催の趣旨を説明。

セミナーでは、コロナ禍で講じられている給付金や補助金、助成金、無利子・無担保融資などさまざまな支援策について専門の講師が説明。事業の内容や企業の規模などに応じてどの支援策が適切か、審査に通るには、より多くの融資を引き出すにはなど実践的なノウハウを伝授。「今、いちばん知りたいことを聞けた」と参加者には好評であった。

一方、同じ週の27日にやはり建築用塗料の有力ディーラー・フジミも「お客様WEB講習会」を開催、40名以上の得意先がリモートで参加した。

清元秀社長は「4月のフジミフェアは中止になり、感染拡大防止の観点から営業訪問も自粛をさせていただいていた中、こうしてお会いできるのを楽しみにしていました。オンライン講習という当社にとっても初めての試みですが、新しいことにもどんどんチャレンジしお客様に価値のある情報をこれまで以上にご提供、ご提案していきたい」とウイズコロナ時代の新たなつながり方について訴えた。

同社の講習会は塗料や機器、用具、副資材などメーカー5社による新製品のプレゼンが主体。WEB講習のため集中力持続の観点から全体の時間を1時間10分に設定、メーカー1社当たり10分前後のプレゼン時間とした。

これが奏功した。メーカー各社は短い時間の中でセールスポイントを伝えるため、要点がクリアになり、分かりやすく聞きやすい。プレゼン終了後のQ&Aで活発に質問が寄せられていたことからもWEB講習会の有効性を実証。また参加メーカーからも「我々の活動が制限されている中、いち早くこのような機会を設けてくれたことはありがたい」との声が寄せられ、塗料ディーラーの存在感を示した。

荻野化成、フジミの両社とも今後もWEBを活用した活動を継続する意向。「お客様からは移動の時間や費用がかからず気軽に参加できると好評。得意先と仕入先で構成する『荻野化成友の会』でも活用していきたい」(荻野社長)や、「移動の負担がないことに加え、今後のために一度Zoomを使っておきたいなど多くのお客様に賛同していただきました。7拠点で広域展開している距離の壁を越え、『オールフジミ』のパワーに変えていけるよう今後も続けていきたい」(清社長)と有効性を見出している。

存在感高まる塗料流通

今回のコロナ危機で塗料ディーラーの役割が改めて見直されている。企業の活動自粛でメーカーからの情報が滞りがちな中、「物は造られているのか」「材料は予定通り現場に届くのか」などユーザーの不安も広がっていた。特に建築塗装市場は感染がピークにあった4月の段階でも例年と同じような仕事量が続いており、企業の活動自粛と市況とのギャップが生じ始めていた。

それを補完したのが各地の塗料ディーラーだ。自社でもテレワークやシフト勤務など異例の体制を敷きながら、通常通り動いている市場の最前線で対応。「シフト勤務で人員が減っている分、却って忙しかった」(清社長)という状況下、モノやサービス、情報の提供が滞らないよう流通業の責務を果たした。

そしてもう1つ見直されるのが物流力だ。今回、"巣ごもり需要"でEコマースが飛躍的に増大したが、アフターコロナでも人の移動が抑制され、それに相反してモノの移動が増大する社会が十分に予想される。その中で、重い、漏れる、危険など物流上で不利な立場にある"塗料"の配送が更に困難になることは想像に難くなく、塗料を在庫して客先や現場に届けるという塗料流通業の基本機能の重要性が高まる。



フジミ「お客様WEB講習会」の画面
フジミ「お客様WEB講習会」の画面

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