ケーススタディ 塗料販売店のテレワークを探る
不測の事態から社員を守る

1月に再発令された緊急事態宣言で業界内でも再びテレワーク導入の気運が高まっている。しかし塗料販売店においては、顧客対応のために全部門が連動しており、内勤を含めた全社体制でのテレワーク導入は、難しいとの見方も目立つ。とはいえ多くの経営者は、テレワークに働き方改革やBCP対策としての有意義性を見出しているのも事実。全社体制でテレワーク導入に取り組む塗料販売店の事例から実現化への糸口を探る。


■台風豪雨が契機に

千葉県市原市で建築塗料販売を主力にするユニペンがテレワーク導入に着手したのは、2019年秋に千葉県全域を襲った大型台風と豪雨災害がきっかけ。後に「令和元年房総半島台風」と名付けられた台風15号が9月に上陸。10月には台風21号に伴う豪雨の影響により、県内各地で多数の停電、川の氾濫、住宅損壊、浸水被害が発生した。

台風15号が通過したその日は平日だったこともあり、倒木などによる渋滞の影響に見舞われながらも社員全員が出社。通常1時間のところ3時間かかった社員もいたという。

このことが石井社長の思いに火を付けた。「自然災害はこれからも頻繁に起こると考えなければならない。会社として社員の安全を守る必要があることを痛感した」と緊急時に出社を不要にするテレワーク導入に向かわせた。

まず着手したのは、全社員が遠隔で業務を遂行するために必要な端末、機器などのインフラ整備。

具体的に実施したのは、①デスクトップパソコンからノートパソコンへの移行(5台)②自宅にインターネット環境のない内勤社員に対し、ポケットWi-Fiを支給(3台)③社内基幹システムのオンライン化④基幹サーバーの新規導入④固定電話から携帯電話への内線転送サービスの利用など。折しも国のIT導入補助金やテレワーク推進補助金の申請に間に合うことが分かり、約500万円にのぼる設備投資の約半分を補助金でまかなった。

そうした矢先の第1回目の緊急事態宣言の発令。「コロナと関係なく準備を進めていたことだが、スムーズに運用に入ることができた」と4月からテレワークの本格運用をスタートした。

■出社比率を5割に抑える

テレワークの運用といっても社内の人員をゼロにすることはできない。配送、施工はもとより、社内でなければ対応できない業務、資料もあるためだ。 

そこで同社が取ったのは、部署ごとに出社組とテレワーク組を分ける2班体制。施工事業を担う塗装事業部を除き、営業、業務の各部署の出社比率を5割に抑えることで感染対策と事業の活力維持を図った。

しかし、運用しながらいくつかの問題点も見えてきた。

4月のスタート時は、1日置きに出社組とテレワーク組を入れ替えていたが、「1日置きでは、社内業務の引き継ぎや顧客対応がうまくいかない」との意見が出た。

受発注や見積対応を担う業務課は、通常であれば受注担当や発注担当と仕事を分担することができるが、テレワーク時は、出社組がそれぞれの業務を横断して担わなければならない。キャリアも影響するが、1日置きでは前後の過程が把握できず、毎回の引き継ぎが大変だったという。また塗料営業においても顧客からの注文に「明日出社(組)なので、明日持っていきます」と返答しにくいケースもあったという。そのため1カ月後に当初の1日置き体制から午前組、午後組の当日シフト体制に変更した。その他、入力の時間差でデータ在庫と実在庫が合わないケースもあり、実状に合わせて柔軟に改善を加えていった。

業務課で13年のキャリアを持つ森美幸さんは、「最初はどうなることかと思いましたが、徐々に慣れていきました。私は基本的に午後出社だったので、午前中に電話や社内対応に追われることなく伝票入力をじっくりできるのは、在宅勤務の良いところです。ただ毎回伝票を自宅に持って帰るのは大変でしたね」と率直な感想を語る。

反対に人数を減らした中での社内での業務対応は、顧客や営業からの連絡が集中するため、自分の仕事が後回しになりやすい側面もあるという。同社は以前から営業社員にも遠隔で材料発注ができるシステムを構築しているが、業務の負荷を低減するためには「社員全員の意識改革が必要」と石井社長は指摘する。

現在は、感染対策に留意しながら通常の体制に戻しているが、同社のテレワークは、コロナ対策とは別のところにある。石井社長は、「当社のテレワークは、自然災害をはじめ不測の事態に対し社員の安全と雇用を守ることが最大の目的。ただ残業時間が大幅に減少した他、営業においても時間のゆとりが生まれ計画的に行動する契機になった」と実務面での成果を評価する。同社はコロナ終息後もBCP対策や働き方改革の一環としてテレワークの運用を継続していく意向だ。

◇株式会社ユニペン会社概要△創業1976年△社員数13名△業容:塗料・化成品販売等(約6割)、施工(約4割)△組織体制:塗料販売部(塗料営業・配送)、塗装事業部(施工)、業務部



石井亮介社長
石井亮介社長
社屋前景
社屋前景

HOMENew Trendケーススタディ 塗料販売店のテレワークを探る

ページの先頭へもどる