水谷ペイントは、微粒子酸化チタンの安全性への懸念を改善した新たな光触媒を開発した。独自製法により、一般的な酸化チタン光触媒の数十倍の大きさに結合することに成功、超微粒子に起因した安全性リスクを改善し、有害物質の分解効果も高めたという。「ACパウダー」の製品名で各種の用途に原料として供給を行うとともに自社の塗料製品にも応用、新たな光触媒として市場開拓に乗り出す。
3月9日に東京ビッグサイトで開かれた「建築・建材展」に出展、開発品の光触媒「ACパウダー」を初めて披露した。ブースで対応した同社の水谷勉専務(技術部統括)は、「建材、樹脂製品などさまざまな分野の企業さん、また同業の塗料メーカーさんからも高い関心を示していただいた。従来の光触媒で懸念されていた安全性へのリスクをクリアできたのが大きいのではないか」と手応えを示した。
太陽や照明などの光が当たるとその表面で強い酸化力が生まれ、有害物質や汚れなどを分解除去する光触媒。さまざまな製品分野に浸透し、国内では現在620億円規模の市場が形成されている。塗料あるいは内外装建材などのコーティングに光触媒が多用されており、業界的にも関係が深い。
光触媒は一般的にナノサイズの微粒子酸化チタンが用いられており、ナノマテリアルに起因した安全性の点で懸念が持たれている。例えば有機樹脂に配合された場合、光触媒の活性によって周りの樹脂も分解され、酸化チタンのナノ微粒子が大気中に放出されることへの懸念だ。
酸化チタンの発がん性に関する一連の議論の中で昨年10月、「ナノサイズの酸化チタンに対してがん原生を示す証拠は得られなかった」と厚生労働省が結論づけたものの、「ナノまで小さくなった微粒子は呼吸器だけでなく皮膚からも体内に吸収されます。生体への影響からナノマテリアル自体への懸念が高まる中、それを大気中に放出しにくくする技術はアドバンテージになる」(同社担当者)と「ACパウダー」の優位性に言及する。
開発した光触媒「ACパウダー」は、微粒子酸化チタン(光触媒)を無機バインダー(非公表)のまわりに結合させ、クラスター(集合体)状に形成した光触媒。無機バインダーを核に、その表面を多数の微粒子酸化チタンが覆っているイメージで、従来の光触媒の数十倍の大きさ(ミクロンレベル)に形成することに成功、「ナノマテリアルに起因した安全性への懸念をクリアできる」(同)のがセールスポイントだ。
例えばACパウダーを樹脂に配合した場合、粒子が大きい分、従来の微粒子酸化チタンに比べて周りの樹脂との接触面積が小さくなり分解する樹脂量も少なくなる。また、クラスター状の複雑な形状をしているため空隙も不均一で、粒子が容易に大気中に飛散しなくなる。「例え放出されたとしてもミクロンレベルに肥大化しているので早期に落下します。呼吸器や皮膚から吸収されることもなくナノマテリアルのリスクを避けられる」と安全性について説明。
更に光触媒としての分解力が高まったこともセールスポイントに挙げる。
紫外線照射によるメチレンブルーの色の消失度で光分解力を測る試験では、従来の光触媒酸化チタンに比べて短時間で青色が消失し、高い分解力を証明。防カビ性においても従来型光触媒との明確な性能差を確認した。なお、「ACパウダー」の開発は経済産業省の令和元年のサポイン事業にも採択され、大阪産業技術研究所、金沢工業大学との産学官共同で製品化が進められた。
同社は「ACパウダー」の展開について、さまざまな製品分野に光触媒原料として供給を行うとともに塗料製品への応用も進める。
新型コロナ感染症の拡大で安全衛生へのニーズが格段に高まり、抗ウイルス、抗菌、有害物質除去など光触媒への注目が高まっている。「光触媒を応用したいけれど微粒子に起因する安全性への懸念で躊躇している潜在層も多い。今回の展示会でも安全性を改善した点への反応が大きく、さまざまな製品分野から多くの引き合いをいただいた」とし、原料供給でのアプローチを強める。
また、塗料製品への応用では夏前の上市予定で内装用の光触媒塗料の開発を進めている。「無機バインダーに結合させる光触媒を可視光応答タイプに変えれば、室内の照明で反応する内装用の光触媒塗料として壁や床に展開できる」とし、今回の展示会でも参考出展。同業の塗料メーカーからも関心が高かったことから、内装用光触媒塗料としてOEM供給も視野に展開を進める。
今回の開発により「安全性への懸念を改善したことで光触媒の新たな市場が拓ける」とし、展開を加速させる。