塗装店のケーススタディ 実働するショールーム
コロナ禍で週休3日制を導入

建築塗装会社が新たな挑戦を始めた。1つは職人を含めた全社員の週休3日制の試み。コロナ禍で働き方の変容の機運が生じている中、施工会社としての新たな働き方を探る目的で始めた。そしてもう1つは、建築仕上げの総合ショールーム「建築図書館」のオープン。塗り板やカタログを並べただけのありがちなショールームと異なり、『この仕上げをやってほしい』と来場者を瞬間的に魅了する展示にこだわった。それら2つの取り組みに共通しているのは"職人"のモチベーションアップ。山形県上山市の塗装会社・ゆうき総業を取材した。


同社は5月の連休明けから6月末までの期間限定で、全社員の週休3日制を試行している。「従来は第2・第4土曜日が休日でしたが、昨年から営業部門と総務に関して完全週休2日制に移行。今回、施工管理部と工事部(職人)を含めた全社での完全週休2日制を前提に、その前段階としてよりハードルの高い週休3日制を試みています」と結城伸太郎社長(写真)。

新型コロナウイルスの影響で仕事量が落ち着いていることもあり、「トライアルの良い機会」と捉えた。同時に「自社の社員を休ませ、その分協力業者の仕事量を増やす」との意味合いがある。公的な制度を利用して自社の社員の所得を確保しつつ、協力業者の収入を担保する。「不透明感が高まっているこのような時期だからこそ(協力業者に)優先的に仕事を回すことが大事。施工品質の要となるのは結局のところ互いの信頼関係ですから」と視点は定まっている。

そして週休3日制にトライしているなによりの狙いは社員、特に社員職人の管理能力の向上だ。それぞれの職人がシフトを組んで週に3日休むようにしているが、「自分が現場を空けるときのために事前の段取りや手配、進捗計画などがより重要になりますから、職人の調整力や管理能力が養われます」と"休む技術"も1つの能力と説明する結城社長。

営業と総務を週休2日制にした昨年4月以降利益率が大幅にアップしていることを実証しており、全社的な導入への動機付けとなっている。同社の社員は現在22名で、そのうち12名が社員職人。現場に追われて週休2日が困難だった職人にそのスキルが備わることで、「管理部や営業部などの関連業務が減り結果として全社的な生産性が高まります」と論理を展開。加えて「オフ(休日)の充実がオン(仕事)の力になる、そんな社風を築いていきたい」と働き方改革の展望を述べる。

インスタ映えスポットの宝庫

今春、建築仕上の総合的なショールーム「建築図書館」を本社に併設してオープンした。目指したのは「お客様が行きたくなるショールーム」。塗り見本やカタログを陳列した形だけのショールームではなく、「当社の"仕上商品"の展示を見て、『この仕上げをやってほしい』とお客様が注文したくなる、いわば実働するショールーム」と説明。

同社は塗装、左官、タイル、防水、外構、大規模修繕、木工事、内装工事など「総合仕上のスペシャリスト」を自負。「建築図書館」は、それらの技術・技能の粋を集め、建築仕上の多彩な魅力を発信するスペースとの位置づけだ。

「お客様が行きたくなるショールーム」を探るため、結城社長は都内の有名な家具店やインテリアショップを訪ねて研究、「店内に入った瞬間、思わず引き込まれる空間づくり」に工夫を凝らした。その要は同社の職人が制作した展示作品の数々だ。

モルタル造形やスタンプコンクリートで演出した外構、塗装や左官のテクニックを駆使した"映える壁"、イタリアの特殊塗料「Val Paint」は非日常的な空間を演出し、飾っておくだけでも絵になるタイルのコレクションも来店者を強く惹きつける。「やはり意匠が重要」(結城社長)というように、どこを切り取っても"インスタ映え"する建築図書館は『行きたくなる』要素が詰まっているのだ。

そして壁や床、空間を演出するさまざまな仕上げや展示しているサンプルボードなどはすべて「当社の施工メニューであり、商品そのもの」との位置づけ。このため壁や床、サンプルボードなどそれぞれの"商品"にはQRコードが付され、電子カタログと連動。来店者はQRコードを読み取ることで、より詳細な情報にアプローチできるという仕掛けだ。

更にこのほど、自社の公式アプリをリリースし、ポイントをインセンティブとした会員登録制度もスタート。ITを活用し、施工会社としてのデジタルトランスフォーメーションも進める。

建築図書館で訴求するのは自社の技術・技能であり、それに基づいた意匠の表現力。造形モルタルやスタンプコンクリート、Val Paintなど特殊工法の修得には講習費用もかさむが、「当社ではそれぞれ担当の職人を決め、研修を受けさせて技能を修得、自社の商品に仕立てています。担当した職人はそれこそ、"自分の商品"というくらいの気持ちで、愛着を持ってその仕上工法を育ててくれる。職人のモチベーションアップと自社の施工の差別化、付加価値化を両立するサイクル」と説明。週休3日制へのトライアルも建築図書館の開設も、"職人力"の向上が底辺に流れており、それが同社の成長戦略でもある。



結城伸太郎社長
結城伸太郎社長
ショールーム外観
ショールーム外観
Val Paintで演出したインテリア空間
Val Paintで演出したインテリア空間

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