住宅塗り替えとアスベスト対策、抑えるべきポイントとは

大気汚染防止法(大防法)及び石綿障害予防規則(石綿則)の改正に伴い、2021年4月から規制強化が始まっている建物の解体・改修工事におけるアスベスト対策。行政の目が向きやすい大型の工事はともかく、住宅塗り替えのような小規模な改修工事まで規制が厳格化するのだろうか。多くの塗装店が気になっている問題について疑問に応える研修会が開かれた。木造住宅塗装リフォーム協会(木塗協、代表理事・古畑秀幸氏)が先月開いた会員向けの研修会で東京都環境局のアスベスト対策の担当者が登壇。塗装店(木塗協会員)の質問に答えるかたちで住宅塗り替え工事におけるアスベスト対策に言及、押さえておくべきポイントが明らかになった。


研修会を開いた木塗協は、塗装店を主体に住宅の外装リフォームをメインとした事業者約170社で構成。競争の激しいリフォーム市場で勝ち残り、成長するためのさまざまな取り組みを実施、活発な活動を行っている団体だ。そのうちの研修事業において、今年3回目の定期研修会を2021年11月18日にオンラインで開催。石綿法改正をメインテーマに据え、東京都環境局大気保全課からアスベスト対策の担当者を講師に招聘。住宅外装リフォームで留意すべきポイントについて学んだ。

研修会ではまず、アスベストの基礎知識及び大防法の規制内容を説明。

住宅の塗り替え工事との関連で見た今回の法改正のポイントは、屋根や外壁塗装の対象基材となるレベル3建材も規制が強化された点だ。化粧スレート屋根材、窯業サイディング、ケイカル板、石綿仕上含有仕上塗材(旧塗膜)など住宅の塗り替え工事で頻出する対象基材に関して、アスベスト含有の有無の事前調査の義務が生じ、その結果の発注者(施主)への報告義務と、監督官庁への報告義務も課せられる。

なお、監督官庁(都道府県及び労働基準監督署)への報告義務は来年4月1日からで、電子システムによる報告制度が開始。また、事前調査も令和5年10月から資格者(建築物石綿含有建材調査者など)による調査が義務化される。ちなみに、これらの規制対象となるのは請負金額が100万円以上(消費税含)の工事で、自社が元請けで工事を受注した場合。従って、自社元請スタイルの塗装店は留意しておく必要がある。

アスベスト対策、気になるあれこれ

さて、木塗協の会員が知りたいのは今回のアスベスト対策の規制強化が普段の自分たちの仕事とどう関わるかだ。研修会後半ではその点について質問が集中、その一部をQ&A形式で紹介したい。

Q:建築仕上塗材のクラックの補修で、当該箇所を削る場合、事前調査は必要か。
A:レベル3の建材(建築仕上塗材)を切ったり削ったりなどの手を加える場合、アスベスト含有の有無を調査する必要がある。

Q:化粧スレート屋根、窯業サイディングの塗り替えにおいて、高圧洗浄で実際には表面の塗膜を削る作業が伴う。事前調査の対象か。また、洗浄廃水を排水桝に流していいか。
A:塗装工事に関してはこれまで、汚れを落とすだけの手洗い程度の洗浄で塗装をするだけという作業であれば、下地を切る、削るなどが発生しないので解体作業などには該当しないとの判断だった。しかし、高圧洗浄で表面を「削る」ことが伴えば、事前調査で基材のアスベストの有無を調べなければならない。そこでアスベストの含有が判明した場合、高圧洗浄の廃水は受水槽をつくって回収し、沈殿凝集してアスベスト含有汚泥として適切に処理しなければならない。

Q:劣化窯業サイディングの取り換えで1枚でも剥がす場合、事前調査は必要か。
A:取り外し、穴あけ、コア抜き、カットなどの加工が1箇所でも発生すれば事前調査必要。

Q:リシンを吹き付けた旧塗膜(レベル3)の除去方法。
A:剥離剤+ケレン棒などが適当かと思う

Q:建築仕上塗材の剥離で、実際には下地調整材にアスベストが含まれている。下地調整材は剥離剤ではとれず、グラインダーが必要。
A:電動工具を使用する場合は隔離養生(負圧なし)が必要。

Q:シーリング材撤去に伴い、塗膜(レベル3)を除去する場合は?
A:塗膜除去は事前調査必要。

Q:相見積において、ライバルが施主に対して「アスベストはうまくやっておきますよ」と対策費を乗せずに受注、自社は失注した。その場合、何か手立てはあるか。
A:通報してほしい。「近所の者」としての通報でもいい。所在地さえ明確であれば役所は現場に確認にいく。虚偽報告が判明した場合、元請業者だけでなく発注者(施主)にも罰則が科せられることに留意してほしい。

Q:現場の巡回や見まわりは?
A:流しのパトロールで目についた現場を、いわゆる抜き打ちで検査を強化している。建設業界では東京都環境局の名前が知れ渡ってきているようだ。

Q:アスベストによる死者数は?
A:平成15年から令和2年の累計で1万7,108人、年間1,000人前後の方がお亡くなりになっている。労災認定による支給決定者だけでその数なので、他に肺の病気で亡くなっている人の中にもいらっしゃる可能性があり、実態はもっと多いと思う。工事で石綿を周辺に飛散させると信用を失うばかりでなく、いちばん被害を受けるのは作業者本人で、将来にわたって健康被害の補償をしなければならなくなる。そうしたことを防ぐためにもしっかりとしたアスベスト対策を実施してほしい。

木塗協は今回の研修で明らかになったことを踏まえ、「アスベスト対策を熟知し、施主への説明としっかりとした対策を行えることはむしろ優位性につながる」(古畑氏)とし、団体の活動に落とし込んでいく意向だ。



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