遮熱性舗装、特需に期待と課題 

2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向け、マラソンコースの遮熱舗装工事が進められている。主催側はコースの詳細、施工計画などは明らかにしていないが、選手が走る道路はすべて遮熱化される見通し。業界においても特需とその後の市場拡大が期待されるが「道路としての安全性確保が最優先課題」(道路施工会社)と発注側、受注側とも実績重視の傾向を強くしており、オリンピック特需が遮熱性舗装の拡大につながるか不透明だ。


昨年8月31日、東京都、大会組織委員会、日本陸上競技連盟などで組織する「アスリート・観客にやさしい道の検討会」は、各種舗装を比較実験するための現地試走会を実施した。舗装の種類は、密粒舗装、遮熱性舗装、保水性舗装の3種類。モニターランナーによる走行感の違いや散水効果など、さまざまな状況を想定し、比較実験を行った。

結果的には、走行時における眩しさについて課題を残したものの、温度感、照り返し感、湿度感、滑りにくさについて遮熱性舗装が高評価を獲得。アスリートのお墨付きを得たことでマラソンコースの遮熱化に弾みをつけた。

都が計画に打ち出すのは、マラソンコースを含む都道約136kmの道路整備。その内、2014年度末までに遮熱性舗装が約65km、保水性舗装が約19kmの計約84kmの整備が完了し、2015年度からテストイベントを行う2019年秋頃までに毎年10km程度の施工を行う計画を掲げる。

これを年間の塗料需要に試算すると、塗装面積は、長さ約10km×道路幅約10mで約10万㎡。塗布量(規格値)は1㎡あたり0.7~1.1kg換算で、およそ70~110トンの需要が5年間にわたり発出する。これを商機と見るか、一時的と捉えるかは、判断が分かれる。平成28年度の道路用高日射反射率塗料の出荷量(日塗工調査)は397トンで、その3割に相当するボリュームだ。

ただ、遮熱性舗装の実績を重ねるためにこれまで塗料メーカー、道路施工会社、東京都の三者で塗料規格や施工要領を固めてきた経緯があり、「あまり無作為にメーカー、施工業者を呼び込み、安全性を損なうことがあってはならない」と普及の重要性を訴求しながら、限定的に進めたいとの思惑が入り混じる。一部の塗料メーカーでは、低臭性に優れたウレア樹脂タイプを開発し、拡大のチャンスを伺うが、対外的なPRを控えている点もこの市場の特色となっている。モニターランナーの指摘にあった眩しさに関しても、明度40~42以下のグレー色で10℃以上の温度低減効果(照射試験)を確保し、その他ねじり試験や打撃試験で自動車走行に耐えうる耐久性を担保する考えだが、色の均一性も重要な課題。「塗料だけでなく、施工ノウハウも大きく影響する」ことも閉鎖性を強めざるを得ない背景となっている。

市場の将来性については、オリンピックの理念であるレガシー(遺産)として継続利用され、海外マーケットへの拡充を期待する声もあるが、東京都側の立場はオリンピック以降の計画は白紙の状態。また普段人が走ることがない自動車道路を遮熱化することにどれほどの有意性があるのか、用途やコスト面を含めて遮熱性舗装市場の拡大に疑念を持つ関係者も少なくない。

遮熱性舗装の需要拡大は、テーマパークや駐車場など民間物件への採用が鍵を握る。オリンピックでいかに効果を実証できるかが試金石となる。



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