同業者による経営支援事業を始動

日本自動車車体整備協同組合連合会青年部会(部会長・伊倉大介氏=以下日車協青年部会)は、昨年5月の総会で表明した会員企業の経営力向上を目指す経営プロジェクトを今年3月に本格始動した。同プロジェクトは、同じ板金塗装業を営む幹事メンバーが選定したモデル企業の経営に関与し、具体的な経営支援を行うというもの。業界団体の常識を超えた事業に挑む背景には、生き残りをかけた若手経営者の強い危機感がある。


先進安全自動車の普及やEV(電気自動車)に代表されるパワートレインの変化は、自動車整備の在り方を大きく変えようとしている。特に事故車の補修・メンテナンスを担ってきた整備業、板金塗装業においては、これまで蓄積した経験では太刀打ちできない技術(設備)対応力が求められている。

既にディーラー系工場や大手BPは、次世代自動車の点検、補修に対応した設備投資を積極化している中、事業規模や経営状態によって対応にばらつきがあるのも事実。むしろ「今後も大きく変わらないと見ている経営者は多い」(伊倉氏)と同業者同士でも共通理解の難しさを抱える現状がある。

こうした時代の先行きに対する見方の違いは、自動車整備業者の大多数を零細企業が占めるところが大きい。次世代自動車の普及よりも早い同業者の廃業は、残存する事業者にとっては"忙しさ"となり、地域に根ざす零細企業にとっては変化に対する実感が得にくいためだ。

ただ、次世代自動車に対応した設備投資や若手人材の採用、労働環境の整備は、経営環境の厳しさを浮き彫りにしていく。「忙しいわりに全然儲からない」「人材を募集しても応募が全くない」など。個々が抱える経営課題は、次第に将来に不安を持つ若手経営者同士の結び付きを強くしていく。

部会員からモデル企業を選定

そうした将来に不安や危機感を持つ若手経営者の支援策としてスタートしたのが会員個社の発展を目的とした経営プロジェクト(経プロ)。同会の持続的成長を目指す組織プロジェクトと並行し、2030年をターゲットにしたビジョンから経営改革に着手するものだ。

ただ、ビジョンや経営改革といった言葉を掲げるだけでは、部会員の共感は得られない。そこで経プロがまず着手したのは、モデル企業による実証。「実際に部会員の中からモデル企業を選び、成果を得るために講じた取り組みの過程を公開することで説得力が高まると考えた」と経プロリーダーの松本悟氏(ボディショップ和=岐阜)は話す。経プロ最大の特徴は、支援策を外部の講師に仰ぐのではなく、経プロメンバーをはじめとする幹事が中心となりモデル企業の経営に関与するところにある。

モデル企業の募集に対し、7社が応募し、内2社をモデル企業に選定。事業継承を控える宮ヶ谷自動車(鹿児島)と、独立後個人事業の形態を取る中澤自動車(茨城)の2社が、部会員の共通点が多いとの理由から選ばれた。

支援内容としては、月1回の頻度で経プロメンバーと幹事団、モデル2社を交えたミーティングを行い、経プロから指摘を受けた課題に対し、実践と評価を繰り返していく。5月の総会で中間報告、11月の全国大会で最終報告として成果を示したい考えだ。

そのため経プロメンバーや幹事団の指導にも熱が入る。「経営状態を丸裸にしてまで自社の改革を望むモデル2社の意欲に応えたい」と松本氏。経営指標の洗い出し作業では、毎月の工賃売上、台単価、材料粗利、塗装工賃に対する材料費比率、処理台数、保険台数、保険割合、新規受注数、既存顧客リピート数、国産車数、輸入車数、外注費、1日当たりのパネル塗装枚数など、細部にまで突っ込む。「1つの指標に対し、複数のメンバーのさまざまな観点から改善手段を聞くことができる」と、1回のミーティングで費やす時間は5時間を超えるという。

モデル2社は、ミーティングで指摘を受けた課題に取り組み、その結果を経て、次の行動に落とし込むPDCAを繰り返していくが、課題解決以上に経プロがモデル2社に求めるものにビジョンの策定がある。「ビジョンは夢や将来像と置き換えてもいいが、経営者自身が将来像を持てない会社に未来はない」(伊倉氏)と言い切る。

今回のモデル事業では、経営者が掲げるビジョン達成に向けた経営改革を最大の目的としているが、一方同会としては、ビジョンを持ち得ない従属環境に長く置かれたことが整備業、板金塗装業全体の地位低下を招いたとの見方がある。

塗料や資材が高騰する中、「顧客に対し、材料比率が上げられない実態がある」と話すのはある経プロメンバー。自らが描いた未来像を達成しようとする主体性が変化の激しい時代を乗り越える術になるとの見方がある。



経営プロジェクトリーダー 松本悟氏
経営プロジェクトリーダー 松本悟氏

HOME工業用 / 自動車同業者による経営支援事業を始動

ページの先頭へもどる