ペイントで自動運転をサポート

自動運転の本格的な実用化がまた一歩近づいてきている。日本ペイント・インダストリアルコーティングスは自動運転を支援する塗料として「ターゲットラインペイント」を開発。神奈川中央交通と慶應義塾大学SFC研究所が共同研究・運行している自動運転バスの走行システムに同品を提供した。9月6日には神奈川県藤沢市の慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスでメディア向けに試乗会を実施。自動運転をサポートする塗料の有効性を示した。


近年、人口減少・高齢化社会での移動手段の確保、人手不足下での円滑な物流機能の維持や交通事故を減らす手段の1つとして、自動運転による貢献が期待されている。国土交通省と経済産業省の共同設置による「自動走行ビジネス検討会」は、2025 年度ごろまでに限られた領域内ですべての操作をシステムが行うレベル4 のサービスを40カ所以上で実施するとの目標を掲げている。

それに伴い、自動運転技術の実用化に向けた実証が各地で進められている。特に地域のインフラとして欠かせない路線バスなど、一部は実用化に達しつつある。

今回の試乗会は慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス内の各学部棟を循環しているルート約2.2kmを結ぶバスで実施された。バスの前方には障害物の認識や信号の認識用にカメラが2台。加えてレーザー光を照射し物体に反射した往復時間を計測することで周辺物体までの距離や反射強度を計測するLiDARが3つ取り付けられている。GPS(衛星測位システム)やLiDARによるマップマッチングでバスの位置を測位する他、速度制御や衝突回避ブレーキの制御を行う。

この自動走行の補助的な役割をするのがターゲットラインペイントだ。LiDARの発する波長を反射させる特殊塗料で、バスの位置推定の精度を高める。実験では車両の軌道上中央に同品を施工した。

今回の実験に参画している慶應義塾大学の大前学教授は「自然が多いキャンパス内では、生い茂る木々が遮蔽物となりGPSで測位できないことも多い。そんな時にターゲットラインペイントが代わりに測位することで、自動運転の安全性や継続性を担保する重要な役割を果たしている」と説明する。

自動運転の導入ハードルを下げる

ターゲットラインペイントの最大の特長は、自動運転の導入やメンテナンスコストの削減。例えば、自動運転を支援する技術としてはゴルフカートなどに使用されている電磁誘導線がある。磁気マーカーを軌道上に埋め込むことで決められたルートを走行する仕組み。しかし、埋め込みのための施工費用の高さや管理のしにくさに課題があった。

これまでさまざまな自動運転バスの実験を行っており、今回の共同研究にも参画している神奈川中央交通は「磁気マーカーを使用した実験も行ってきたが、位置出しから地面に埋め込む施工など自動運転導入までに時間やコストがかかる。対してターゲットラインペイントは塗るだけなので施工時間やコスト削減に加え、メンテナンスの手間も削減できる」とターゲットラインペイントのメリットを挙げる。

加えて、塗装ならではのメリットもある。ターゲットラインペイントはアスファルトと同化しやすい色にすることで、白線などと誤認しづらくなっている。公道では、安全性の観点からドライバーが誤認する可能性があるものは施工できない。その点、塗装であればアスファルトに近い色を選ぶことでクリアしている。
 また、LiDARが認識する形状はシステムによって異なるが、塗装のため形状は自由。更に、運行するルートを変更したいといったケースに簡単に対応できるのもメリットの1つだ。

日本ペイント・インダストリアルコーティングス開発部新規事業創出グループマーケティングチームリーダーの笠置政志氏は「今回はGPSが届かない場所での自動走行の補助的役割を担っているが、メインのシステムとして使用することも可能」と話す。

同社では、今年5月にも長崎県対馬市や明治大学などが開発中の自動運転のメインシステムにターゲットラインペイントを提供し、良好な結果を得ている。

開発した塗料の具体的な組成は明かされなかったが、既に特許出願済み。塗料の耐久性などはこれからの実験の中で明らかにしていく考え。「国の取り組みもあり、自動運転への関心は高まっている。ターゲットラインペイントで自動運転の普及に貢献していきたい」と自治体などに積極提案していく。



道路上に施工されたターゲットラインペイント
道路上に施工されたターゲットラインペイント
慶応義塾大学湘南藤沢キャンパスで運用されている自動運転バス
慶応義塾大学湘南藤沢キャンパスで運用されている自動運転バス

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