女性活躍へ木工塗装のオール水性化を実現

金属塗装や橋梁塗装以上に水性化が困難とされる分野に木工塗装がある。近年は環境対応の流れを受け、塗料メーカーも水性塗料の開発を活発化しているが、現場施工用や一部用途を除いて溶剤系塗料もしくは油性塗料がほとんど。静岡で木工家具製作を営む安田木匠は、そうした"業界の常識"に真っ向から対峙し、完全水性化を実現させた。水性塗料導入に踏み切った経緯から現状まで同社の事例を追った。


代表を務める安田昌弘氏(60)が「手に職をつけたい」と大手電機メーカーの照明デザイン部門から指物職人の世界に飛び込み、安田木匠を設立したのは23年前。指物は、板を差し合わせて作る木工製作技法の1つ。高齢化に伴い指物職人の減少が取り沙汰される中、デザイナーの意向を汲み取り、形に落とし込む安田氏の技術を求め、オリジナル家具を企画販売する家具専門店やインテリアショップなどが安田氏にオファーを寄せている。

量販品と異なり、依頼される家具はいずれもデザイン性に富んでおり、緻密な加工技術と細部にこだわった品質が求められる。品目も照明家具や仏具など小物家具が中心を占める。

そこで安田氏が会社設立時に重視したのは、女性スタッフの登用。古くから木工業界は子弟制度に基づいた男性中心の職人世界を色濃くするが、「比較的女性は、同じことでも丁寧に繰り返す力があります」と安田氏。採用面接時には、「器用かそうでないか、本人に聞くようにしています」と女性なら良いという短絡的な意味合いではないものの、「木工製作は女性が活躍できる職業」と適性の高さを指摘する。

細部までこだわる家具つくりゆえだが、実際に安田木匠の従業員のほとんどが女性。安田氏を除く従業員5名の内、男性従業員は正社員1名のみ。正社員1名とパート従業員の3名はすべて女性で、パート従業員も組立てや研磨など製作スタッフとして関わる。昨年秋には、20代の女性を正社員として迎えたばかりだ。

20代から40代まで在籍するパート従業員については、就学中の子供の送り迎えなど、それぞれのライフスタイルに配慮したもの。経験を要する仕事だけに、女性にとって長く働ける職場づくりが同社の根幹になっている。塗料のオール水性化もそうした女性活用の目線で踏み切った。

ただ、塗装を内製化したのは3年前。それまでは外注でこなしていたが、次第に安田氏が求める品質と折り合いがつかなくなり内製化を決断。そこで助成金を活用し、塗装専用建屋と塗装ブースを導入した。

水性導入は苦難の連続

とはいえ、安田氏自身も水性塗料においては全く未知の領域。同社が手がける仕上げの種類は、主にエナメル仕上げ、フラット仕上げと種類は多くないが、樹種はウォールナット、ホワイトビーチ、メープル、ジャーマンピーチ、栗、スプルースと多種多様。先例がない中で悪戦苦闘の日々が続いた。

特に困難を極めたのが、MDF基材の水性エナメル塗装。溶剤系塗料でも神経を使う仕上げだが「水性塗料(下塗り)を塗ると、基材が膨れ、ペーパーを何回かけても糸くずのような毛羽が消えなかった」と当時を振り返る。塗料も「各社の製品を取り寄せ、試したがうまくいかなかった」という。

そこで安田氏は、上塗りのフラットを下塗りに使う奇策に転じる。なんとかエナメル下地として塗り上げることができたが、本来上塗り塗料として開発されているため、次は中塗り以降の塗料をハジく問題に見舞われる。結果的には、ハジキの原因である界面活性剤を抜いたフラットを塗料メーカー(キャピタルペイント)に特注対応してもらうことでしのいだが、問題を克服してはまた問題に向き合うという日々が続いた。「水性塗料は、ペーパーの番手から当て方に至るまで、すべてにおいて溶剤系塗料と異なる」と安田氏。「スプレーガンも数10製品の中から選び抜くなど地道にノウハウを積み重ねていった。

こうした同社の水性塗料導入の対応に当たったのが、同じ静岡市で木工塗料を販売する谷津商店の谷津徹社長。「水性塗料に関心があり、協力させて頂きましたが、私でなければ務まらなかったかもしれません」と笑う。谷津氏に相談を仰ぐ安田氏の電話は夜中に及ぶことも少なくなかったという。水性2液タイプも許容しない徹底した水性化は、販売店と塗料メーカーの協力なしにはなし得なかったことが分かる。

しかし同社の水性化は、客先からの評価を高めることに。「環境安全性はさることながら、日焼けに強いなど品質面でも高い評価を頂いている」と付加価値につなげている。塗装においては、これまで安田氏の専従だったが、昨年秋、塗装スタッフとして石垣杏奈さん(22)を正社員に迎えた。「職人になりたくて入社を決めました」と石垣さん。「覚えることが多くて大変ですが、毎日が楽しい」と小さな塗装小屋がお気に入りの場所だ。



建屋前景
建屋前景
安田昌弘代表
安田昌弘代表
「スプレーガンを持つのが憧れでした」と石垣さん
「スプレーガンを持つのが憧れでした」と石垣さん

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