賃貸住宅の内装で広がる新塗装サービス

賃貸住宅の市場で新たな塗装ビジネスが動き始めた。入退去に伴う室内の原状回復工事で、既存の塩ビクロスを剥がさずに塗装で仕上げる「クロスカラーリング」サービスだ。クロスの張り替えに課せられたアスベストの調査義務から免れることもあり、賃貸管理会社や物件オーナーからの問い合わせが急増、ビジネスチャンスが広がっている。同サービスを確立したインテリアペインター協会（代表理事：宮本伸宏氏）が、全国的な施工の受け皿づくりを始めている。

「クロスカラーリング」は、クロスを剥がさない原状回復工事。既存の塩ビクロスを塗装によってリフレッシュし、コストも工期も短縮できる原状回復の新たな選択肢だ。

賃貸住宅で退去者が出た場合、次の入居者を迎えるため室内の原状回復工事が行われる。この際、既存のクロスの汚れや劣化の程度によって張り替え工事が行われるが、ここである問題が浮上している。アスベスト含有の有無の調査義務だ。

アスベストの規制強化により、昨年4月から建築物の解体・補修時にはアスベスト含有建材の調査が義務化された。ビニールクロスもその対象で、原状回復でクロスを剥がす作業を伴う場合は調査義務が生じる。アスベストの使用禁止以降に製造されたクロスであっても、それを書面などで証明できない場合は、アスベスト含有の有無を調査するのが基本だ。

それが、賃貸住宅の管理者やオーナーにとって負担になっている。調査にかかるコストに加え、調査結果が出るまでに新規入居者獲得の機会損失が生じかねず、クロスの張り替えそのものへの負担感が高まっている。

そこで注目されているのが「クロスカラーリング」だ。クロスを剥がさずに原状回復が行えるためアスベストの調査義務が生じず、管理者やオーナーの負担が減る。

特に、「コンプライアンスの関係で、大手企業ほど関心が高い」（インテリアペインター協会・宮本伸宏代表理事）とし、大手ハウスメーカー系列の賃貸管理会社でクロスカラーリングの採用が決定。他のハウスメーカーや賃貸住宅ディベロッパーでも話を詰めている他、「民間の賃貸住宅の6割ほどを占める個人オーナー様からの引き合いも急増」（同）しており、対応する施工サービス提供の体制づくりを急ぐ。

養生レス、1回塗りの革新

「クロスカラーリング」は、マスキングテープだけの極めて軽微な養生、ローラーのみの1回塗り仕上げという革新的な塗装システムだ。「1日に1人で平均80㎡、ワンルームタイプの部屋なら1人で2部屋施工できる」というスピード感がビジネス性を生む。

養生は枠や巾木などへのマスキングテープだけで、マスカーも使わない。専用の塗料とローラーによって飛散を抑え、養生レスを実現した。

専用塗料とローラーは関西ペイントの子会社・関西ペイントブラーノのECサイトで供給される。「塗料とローラーと工法の3つの要素からなるパッケージ」（同）とクロスカラーリングサービスの独自性を説明。従来のクロスの張り替えに比べて、「コストも作業時間もメリットを出せた上で、施工者の事業性も確保できた」と自信を示す。

既にハウスメーカー系賃貸会社の管理物件や個人オーナーの物件で多数の実績を築いている。「塗装という手法に対して不安があったが、思っていた以上の仕上がりに満足」「作業時間が短く手離れがいい。すぐに入居者の募集にかかれて機会損失が防げる」「クロスの張り替えに比べてコストメリットがあり、選択肢が増えた」など発注者の支持が広がっている。「クロスの廃材に比べて圧倒的にゴミが少ない」とSDGs視点での評価が高いのも特徴的だ

塗装店、塗料店のサイドビジネスに

こうした動きを受け、全国的な施工の受け皿づくりを急ぐ。現在、ハウスクリーニングや内装業、塗装業などが施工者として登録しているが、全国的な需要に対応するため業種を問わず協会認定の施工者を増やす。

このため協会では、現場での実地作業による研修を実施。修了者は専用塗料や副資材を購入でき、クロスカラーリング事業に参入できる。「マスキングテープやローラーを初めてさわる人でも、1日ですべての作業スキルを修得できる。それくらいのシンプルな作業にそぎ落としてきたのがこのサービスの核心」と宮本氏。従って、シルバー人材や女性など一般の人たちも対象だ。研修費用は5万円／人を設定する。

協会では、それら施工サービスの事業体として塗装店や塗料販売店の参加を呼びかける。「賃貸住宅の原状回復工事はコンスタントに発生するので、継続性の高い事業のひとつ。それを通じて地域の不動産や管理会社と関係が構築でき、外装や鉄部など他のメンテナンス工事の受注も見込める。塗装店や塗料販売店のサイドビジネスとして面白いと思う」とシナジーに言及。

同協会は今後、クロスカラーリングを採用したい発注者と施工者のマッチングなどを行うため、会員制度も設ける予定で、今年6月頃にスタートさせる。参加企業のビジネス支援を行うとともに、実需を増やして内装シーンにおける塗料の需要を創出。「クロスカラーリング」という新たな塗装サービスを賃貸住宅市場に根付かせていく。