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中国塗料は今年5月、創業100周年を迎えた。同社は船舶塗料でグローバルトップ3、コンテナー用ではトップの座を占める。主力のマリン関連は10年周期で大きな波が押し寄せるマーケット。その激浪の中で「よくぞ100年」(植竹社長)との言葉に思いがこもる。次の100年に向けた同社の方向性を聞いた。


----100周年の意義を一言で表現してください。

「1917年に創業し、よくぞ100年継続してこられたというのが率直な感想です。よくぞと強調したのは、我々の主力分野である船舶用塗料はこれまで10年周期の大波の繰り返しでしたからね。そのボトムでは厳しい企業環境にさらされてきました」

----同時に日本の海運・造船工業会と歩調を合わせてきました。

「そこは特に強調したいところです。戦後復興を支えた海運・造船業界の躍進で中国塗料は大きく飛躍することができたわけです。昭和30年代にはイギリスを抜き日本は世界トップの造船大国となり、世界シェアは50%を超えましたからね。この動きに対応して当社も世界市場への参入を果たすことができました」

----国内の塗料メーカーの中で先行的にグローバル化が進みました。

「当社が初めてイギリスのロンドンに駐在事務所を開設したのが昭和43年です。図らずも私が入社した年なのです。いわば私のキャリアとグローバル化は同時進行だったのです(笑)。その後、香港、シンガポールへと順次拠点を拡大していきました」

----マリンマーケットの特徴はどんなところにありますか。

「私自身は東南アジアでの経験が多く、シンガポールには6年余り駐在していました。マリン関連の主な顧客は船主の方々と造船会社になり、双方への対応を同時に進める必要があります。船主の方々はオーナー系でファミリー企業という体質があり、一方の造船会社は企業組織となり、全く異なる形態を有しています」

----ご経験の中で記憶に残っているエピソードはありますか。

「船主の方というのは持ち船を子供のように可愛がります。財産という意味以上に船はファミリーの一員のような感じなのです。私自身海外船主を担当していましたので、船主の方の気質を十分踏まえた営業に苦心した思い出があります。思い出の1つでいえば、香港のワールドワイドシッピングの創業オーナー故Y.K.Pao会長にはずいぶんよくしてもらいました」

----とても人間くさい関係があるのですね。

「人間対人間、そこに生じる信頼関係がベースで、どんなビジネスでも基本となるものです。ですがマリンの世界はそれが特に強いと思います。船主の方に嫌われると出入りは禁止となり、取り合ってもらえません。逆に双方にとって良いビジネス関係を築ける機会があります」

----船主担当時代、常に心がけていたことはありますか。

「相手への思いやりが一番です。実践の面ではクイック・アクション。応答を即座にやる臨機応変性が重要です。とりわけグローバルビジネスの世界では日本流の稟議というパターンは通用しません。個人が企業を代表しているのですから、どんな案件に対しても即断即決が求められます。キャリアが浅い場合には厳しい条件と言えますが、それがまた本人にとっては成長の素(もと)ともなるのです」

----陸上のマーケットと違ったマリン関連の人たちの独特の感性がありそうですね。

「自然を相手にした仕事をしている人たちですから、海に対する思いには想像以上にこだわりがあります。海の仕事をしている人は一生その場を離れることはありません。海と仕事とが一体化して、陸(おか)に上がることができなくなるようです」

----船舶(マリン)用塗料では世界トップ3の位置にあります。

「トップ2か3かは微妙ですが、世界トップを目指しているところです。その推進力は先進的な技術開発にあります。当社は(広島県の)大竹にR&Dセンターがありますが、技術開発要員は世界を飛び回っています。とりわけ船底塗料に要求されるレベルは高まる一方で、環境への負荷軽減とともにNOx規制やSOx規制に対応したより燃費効率の良いテクノロジーが要請されています。そのため世界のマリンペイントをリードしていける技術力が生命線だと考え、これからもR&Dに注力していきます」

----これからの100年ビジョンはありますか。

「創業者は世界に伍していける船舶塗料の開発からスタートしたのですから、その志を受け継いで、次の200年で振り返ったときに100年前の我々が何をしたのかが問われるところです。海運・造船業界は10年余りの周期で構造不況に見舞われ、当社もその波に翻弄されてきましたが、これからはそれを言い訳にしたくありません。現在の事業の3つの柱、つまり船舶・コンテナー、工業用(重防食、木材用等)に加え、第4の柱を確立したい」

----ニューコンセプトは何ですか。

「スモール・ビューティ・オーガニゼーションです。スモールという意味はコンパクトな組織で密度の濃い事業形態を築くということ。ビューティは事業展開や製品の中で他社にはない何か光るものを持つという意味を込めています。支える高い技術力と高い能力のスタッフがベース。人材的には海外スタッフの優秀な人材の登用、女性が働きやすい環境づくりをしていきたい。造船の現場での女性の進出は注目すべきものがあります。グローバル拠点の更なる整備に加え、必要であればM&Aも実行していきます」

----ありがとうございました。



植竹正隆氏
植竹正隆氏

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