脱炭素実現へ、UV・EB技術にフォーカス

グローバル塗料メーカーのアクゾノーベル(本社:オランダ)は現在大阪で開催されている大阪・関西万博のオランダパビリオンに塗装パートナーとして参画している。先日はアクゾノーベル主催でイベントを開催。このタイミングで来日したカイ・ファン・アレム社長(53歳)に、大阪・関西万博への思いや日本塗料市場の見方及び事業の方向性について聞いた。


――6月4日に大阪・関西万博でイベントを開催したとのことですが。
「まずアクゾノーベルはオランダの会社ですのでオランダパビリオンで行ったことが大きな意味があり、そして今回の万博のテーマである『いのち輝く未来社会のデザイン』というのは当社が取り組むサステナブルやイノベーションに合致し、共感を示すものでした」

――どのような内容ですか。
「カスタマーイベントです。当社は複数の事業部がありそれぞれでお客様を呼んで、コネクションを作る機会を設けました。需要家カスタマーと販売店の計35人です。そこにオランダの総領事がイベントに来てくれて、彼がオランダパビリオンのツアーを先導し歴史やサステナビリティについて説明してくれました。オランダ人ですが、大阪に住んでいる人ですのでジョークを交えてスピーチしてくれて大変盛り上がりました。オランダパビリオンでアクゾノーベルがイベントを開催したことを感謝してくれて、我々としてもやって良かったと思っています」

――参加した方々の様子はいかがでしたか。
「印象的なイベントとなったと感じています。アクゾノーベルとお客様だけでなく、お客様同士のコネクションができましたし、我々が何に貢献できるかを説明できました。アクゾノーベルとしては常にお客様と一緒に歩みサポートしていきます。具体的にはお客様のサステナビリティもしくは脱カーボンの取り組みに貢献できるアイデアや考えを提案できたと思っています」

――オランダパビリオンでは貴社の塗料が多用途で採用されていると聞きました。
 「パビリオンのデザイン性と環境性能を両立させる革新的なコーティングソリューションを提供しました。耐久性と美しさ、そして持続可能性を兼ね備えたアクゾノーベルの製品がパビリオンの表面の400㎡以上に採用されています」

――日本市場における事業展開においても意味のあるものでしたか。
 「日本市場に外資系企業が新しく入っていくのは難しいと言えます。日本の塗料メーカーは歴史があり、顧客とのコネクションもある。その中で今回の取り組みを通してアクゾノーベルが日本市場に提供できる内容を示すことができました。日本市場は少し閉鎖的なところもあるので新たな製品を持ち込むことは難しいが、今回新しい関係を構築できたと思っています。グローバルで製品開発した塗料を日本市場に展開できることはアクゾノーベルの強みです」

――日本の塗料需要は少子高齢化などの要因から減少傾向が見られます。
 「まず日本の人口減は理解していますが、それは日本だけでなく多くの先進国で起こっている現象です。その上で人口減少は産業にとって問題であり、ヨーロッパでは海外から人材が入って来ていても全体的には人口の減少傾向が見られています。そうなると、効率的や省人的であることを塗料メーカーとして考えないといけない。現場では熟練工が少なくなっている中で、我々が何をすべきか考える必要があります。それは日本だけでなくヨーロッパやアメリカも同じなのでグローバルで取り組んでいく必要があります」

――日本の塗料市場は規模に対して塗料メーカーの数が多いとの指摘もあります。
 「塗料メーカーが多いと言いますが、ヨーロッパを見ても小さい会社があるので、特別日本だけの特徴ではありません。日本の強さは塗料会社としての基盤を持っていて、海外に展開しているグローバルプレイヤーなっている会社があるということです。そして品質が非常に良い。ただ、最終的にグローバルで見ると、小さい会社は統合されていくのではないでしょうか」

――その理由は。
「小さい会社が事業を続けるのが難しい理由の1つは後継者が見つけられないことです。海外では世襲制のオーナーカンパニーが多く、例えば創業社長がいてその子供は仕事しても孫がいい加減の場合では会社を運営していくのは難しいということがあります」
「もう1つは塗料メーカーだけでなく、世界中で求められているのはサステナビリティの達成や効率化の推進、安全性の維持などがあり、そのためのコストのコントロールも必要です。お客様ごとのカスタマイズも労力がかかるため、今後継続していくことも難しくなります。更にコンプライアンスの問題にも対処する必要があり、経営体力の小さい会社は追随できない状況になってしまいます。法律も変わってきますし、例えば溶剤塗料が作れなくなったら、小さい会社はそのために投資をしてまで続けていけるのか。そういうことが問題として起こるでしょう。そうなるとグローバル企業や規模の大きい会社でないとグローバル市場では生き残っていけないでしょう」

「日本の塗料メーカーは品質に優れ標準化が進んでいる」

――そのような状況になると、貴社が日本の塗料メーカーを買収する可能性はありますか。
「アクゾノーベルでは新しく会社を買うことは日本だけでなく常に目を向けています。日本のことを言うと、塗料メーカーは品質に優れ標準化が進んでいる。そして日本市場は経済規模が大きいので目を向ける意味はあると思っており、チャンスがあればと興味を持っています」

――グローバルで数多くの実績を持つ貴社のM&Aに対する考えは。
「会社を買おうとすると市場の中で競合することになります。自分達が思っていることがそのまま進むわけではなく、お客様の意向があり、それに合わせて望まれる方向に動いていかないと受け入れられない。そういったことを理解しておかないと、いくら買収したとしてもうまくいかないでしょう」

――営業戦略について聞かせてください。販売店経由と直接販売のビジネスの方向性は。
「全く気にしていません。販売店を経由することとダイレクト販売の優劣は全く関係なく、重要なのはサプライチェーンをどうやって維持していくかです。製品とサービスには自信があるので、提供する手段自体は重要ではありません。この分野は販売店を使う、この分野は直接販売するなど、お客様とのコネクション状況にもよることなので、固執した考えを持つのではなくフレキシブルに進めることが最適だと考えています」

――もう少し詳しく聞かせてください。
「販売店を通すことは重要ですが、何のためにビジネスをしているかというと利益のためです。販売店もエンドカスタマーも利益を出さなければ意味がない。もしバリューチェーンの中でロスが発生しお客様の利益が出なくなったら意味がなくなるので、当然やり方は考えないといけない」
「現在、アクゾノーベルとして一緒に仕事をしている販売店さんは、そこを通すことによってアクゾノーベルの価値をより高めていただけると思っているので私は満足しています。その一方で、アクゾノーベルとエンドカスタマーのコネクションが良好で直接販売できるのであればそれが効率的です。そこに販売店が入ったとしても利益が少なくなるのでビジネスは続きません。販売店が入ることによって皆に価値が高まるのであればそうすべきということで、やり方に固執はしません。最終的に利益を生み出せる仕組みを作るのが一番重要です」

――製品開発についてですが、近年では脱炭素に寄与する技術の関心が高まっています。
「もちろん一番重要だと考えています。アクゾノーベルとしても最重点項目と位置付けており、カーボンフットプリントの削減は絶対にやるべきことです。具体的に塗料メーカーがやるべきことの1つ目は、塗料の耐久性を上げることです。塗り替え周期を延ばすことができればその期間のカーボンフットプリントを減らせることは確実なので、製品の品質を上げて長期耐久性を高めることが非常に重要です」
「2つ目はライフサイクルアセスメントの観点です。全体プロセスを見ると、塗料製造においてはそれほどエネルギーを使用しません。一方で、原料製造の工程や塗装の焼付乾燥工程などでは非常に多くのエネルギーを使用しています。お客様のカーボンフットプリントを下げることが重要なので、我々としては塗料の原材料の選定が重要になり、塗料設計する上で、CO2削減に寄与する原材料の選定を研究開発部門が行っています」

――塗装現場でのCO2対策への取り組みはありますか。
「お客様の使用するエネルギーを減らす上で、焼付乾燥工程における提案があります。その1つとしてUV硬化やEB硬化があり、お客様のエネルギー使用量が削減でき全体的に脱炭素の方向に行くと考えています。UV、EBやレーザーキュアといった従来の熱硬化とは違う乾燥方法が適用できれば、エネルギー使用量の大幅な削減に寄与できます」

――バイオマス原料の採用という手法もあります。
「既にアクゾノーベルとしてはバイオベース塗料を展開していますが、現状で見ると大部分は石油由来の原材料を使用しています。その理由として、バイオベースにしたとしても一部では脱炭素になるがその効果は小さいのが実状です。それよりも硬化システムを変える方がより効果的なので、そちらにフォーカスすべきだと考えています」

――UVやEB塗料の状況は。
「もう既に日本のお客様に伝えていますし、海外での実績を見せてサンプル出しも開始しています。UV・EBの実績は日本ではまだ少ないので、お客様は情報を欲していますし、我々自身も理解を深めて製品力を高めていかないといけないと考えています。その方向で進んでいるのは間違いないと言えます。ただし、新しい技術なので分からないこともあり、そこにどういった答えを出すかが重要でアクゾノーベルとしてもそれに取り組んでいます。塗料も変わるし、設備を含めてシステムも変わるので、お客様の決断は簡単ではありません。我々としては丁寧に説明し、実際にうまく生産できるようにサポートしていくつもりです」

――最後に改めてメッセージをお願いします。
「ぜひ大阪万博に来てください。なぜかというと世界で何が起こっているのかが理解できるからです。何が問題で何にチャレンジしないといけないかが分かります。なおかつお互いに手を携えて地球を良くしていくことが分かってもらえるので、ぜひ万博にきて目を見開いて感じてください」

――ありがとうございました。



カイ・ファン・アレム氏
カイ・ファン・アレム氏
オランダパビリオンでカスタマーイベントを開催した
オランダパビリオンでカスタマーイベントを開催した
オランダパビリオンのさまざまな箇所にアクゾノーベル製品が使用されている
オランダパビリオンのさまざまな箇所にアクゾノーベル製品が使用されている

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