生成AI検索ツール「塗料ナビ」開発

日本塗料商業組合が開発を進めてきた塗料特化型生成AI検索システム「塗料ナビ」が今年春、組合員向けにデモ版をリリースした。今後は本運用に向け実装開発を残すだけだが、運用するか否かについては執行部、理事会の判断に委ねられている。実用性と採算性の検証を必要としているためだ。塗料、塗装の専門的な質問に対応する「塗料ナビ」とはどのようなものか。開発の経緯と変遷をたどった。


日塗商が「塗料ナビ」開発の検討を開始したのは2022年。休刊となった「塗料商品名集」の代わりとしてアイデアが浮上した。「塗料商品名集よりも製作の負担が軽く、利便性の良いものができないか」というのが発端だ。

当初は、「塗料商品名集」の内容を踏襲し、検索機能を付加したデジタル版にする方向で検討が進められたが、塗料メーカーに製品の追加や廃番を確認する作業が従来の冊子版と同様に生じる。また、どのようにサービスを提供するか。CD-ROMとして頒布したものが組合員の実用性、利便性に寄与するのか。さまざまな課題から開発は一時暗礁に乗り上げた。「Yahoo!」や「Google」といった無料で使える検索サービスが「塗料商品名集」に近い役割を果たしていたことも開発の意義を曖昧にした。

それでも当時の執行部は、組合員の便益になる情報サービスの追求を続ける。そんな時、2022年11月にアメリカのオープンAIが「ChatGPT」をリリースしたことで局面を大きく変えた。生成AIシステムが汎用化されたことで「塗料ナビ」は、塗料特化型生成AI検索システムとしての開発に照準を定めた。開発を担ったのは、初期から「塗料ナビ」のプロジェクトメンバーに加わっていた青山茂氏(滋賀・青山塗料社長=現情報委員会委員長)。システムエンジニアとしてのキャリアを有していたことで開発に弾みがついた。

目指したのは、プロ、素人など塗料の質問に専門家の視点で回答する塗料特化型検索システム。正確性と専門性の担保が開発の鍵となった。

現状、汎用タイプの生成AIツールで専門性のある質問をしても、情報の不足や細かな点で誤った回答が多く、実用化には遠く及ばない。そうした専門的な質問に用語も含めて回答を導き出すところに「塗料ナビ」の価値を据えた。そこで青山氏は、生成AIの学習機能とインターネット情報に非公開のオリジナルデータを照合させる"RAG"と呼ばれる技術を採用し、回答精度を高めた。

今回、オリジナルデータとなったのは、日塗商が発行する塗料マイスター制度及び塗料調色技能検定のテキスト。「"RAG"によって唯一無二の検索システムになった」と青山氏。正確性については「どんな生成AIでも100%正解を導くことはできない。その中にあっては、最高レベルのものができた」(青山氏)と評価する。

予算も限られた中でのプロジェクトとなったが、大学やIT会社に勤める身内の手を借りつつ「塗料ナビデモ版」を開発。現在、ホームページの組合員専用サイトでデモ版を利用できる。

生成AI検索とは、文章・音声で質問

「塗料ナビ」は、塗料、塗装の専門的で多様な質問を投げかけ、回答を求められるシステム。顧客からの問い合わせや人材育成のための研修ツールとして活用が期待されている、

質問例を挙げると「色ムラを防止するための適切な塗装技術について」「5℃前後の環境で使用できる塗料は」「水性塗料の乾燥不良について」「塗装ブースのIoTセンサー導入に対するアドバイス」など。実務的、実践的な質問を投げかけることができる。

上記の「水性塗料の乾燥不良について」の質問に対して、「塗料ナビ」はまず混合不良や湿気などの可能性を示し、現場対応策として①乾燥環境の改善②塗料の攪拌と粘度調整③乾燥条件の見直し④塗料ロットの交換⑤長期試験の実施を体系化して回答、それぞれにおける対策手法を示した。

「塗料ナビ」は、単語を並べて関連サイトを抽出するキーワード検索と違い、文章や音声で質問し、回答を得られるのが特色。一方、個別製品については、メーカーホームページでの確認を促す回答が多く見られ、生成AIとWEB検索が連動したシステムであることが分かる。

周知から運用の検討へ

日塗商は、デモ版のリリースに際し、活用ガイドを作成し、本運用に向けて意見集約を図っている。活用ガイドでは、効果的な質問として以下を挙げる。
① 文章で質問する
② 目的を伝える
③ 具体的な条件を伝える
④ 1つの回答で終わらず対話を続け、深掘りする。
一方、使用上の注意点として、回答は参考情報であること、個人情報や企業情報を入力しないようにと伝えた。

これから日塗商は、組合員向けサービスとして本運用を開始するか、運用を見送るかの判断が迫られる。サーバー管理やメンテナンスなどの維持費用の他、事業継続のための運営体制の構築が必要となるためだ。

とはいえ「塗料ナビ」が十分に組合員に周知されているとは言いがたい。具体的な形としてサービスが紹介されたのは昨年秋の理事会。生成AI検索ツール自体の認知に課題を残している。

また運用面で重要になるのは、塗料販売に従事する人材の業務、教育に資するかどうか。特に修得に年月を要する塗料知識を補完するツールとしての期待は高い。ある塗料販売店トップは「塗料マイスターで体系的知識を修得し、塗料ナビを実務で活用できるのではないか」と期待を示す。一方、こうしたITサービスを組合で保持することに否定的な意見もある。
賛否両論を交えながら進められてきた塗料ナビプロジェクト。まずは実務を担う人材の意見集約が望まれる。

※ペイント&コーティングジャーナル:2025年6月25日号塗料流通特集より



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